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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第1章 夏の華
月城が呆れたように息を吐く。
「…貴方という方は…。ご自分の価値が全く分かっていらっしゃらない…」
「…え…?」
月城の美しく、大きな手が暁の髪を優しく撫でる。
そのまま造形美溢れる貌の稜線をなぞる。
「…私は貴方の恋の奴隷なのですよ。…貴方の一挙一動に敏感になり、貴方が笑いかけてくれたら、天にも登る心地になるほどに…」
月城に触れられている頬が熱い。
「…嘘だ…。君はいつも冷静で、大人で、落ち着いていて…」
「分かりにくいだけです。この貌のせいで…」
月城は人形のように一分の狂いもなく整った美貌で笑った。
「…私が貴方に飽きることなど、永遠にありません」
「…本当に?」
ふっと月城の怜悧な眼差しが翳りを帯びる。
「…ええ。…私の方が不安でたまりません。…貴方は社交界の華だし、そのお美しさです。言い寄ってくる男女は星の数ほどいることでしょう。…私はそれに対してなす術もない…」
暁は眼を見張る。
「そんなことを思っていたのか?」
「…ええ、恋する男はいつも臆病なのです。…貴方がいつご立派な貴族の紳士に心を移されるか…気が気ではありません」
暁はひんやりとした月城の手に手を重ねる。
「…怒るぞ、本当にそんなことを思っているのなら…」
潤んだ黒い瞳が月城を捉える。
月城の冷たい手の甲にキスをする。
「…僕が愛しているのは君だけだ。これからもずっと…」
「…永遠に…?」
「…永遠に…」
二人は額を合わせて、幸せそうに微笑う。
唇を合わせるだけの可愛らしいキスをする。

「…せっかく君が美味しい朝食を作ってくれたのに、冷めてしまう…」
月城が照れたように笑った。
「…食べましょう」

食事を進めながら改めて尋ねる。
「今日はどちらに行かれたかったのですか?」
暁がバケットを千切りながら答える。
「君と遠乗りに行きたかったんだ。…もうずっと、行ってないから…」
暁は馬が…アルフレッドが大好きだ。
最近は多忙で馬場に近づけていなかった。

月城は珈琲を飲みながら提案した。
「…では、食事が済んだら馬術倶楽部に行きましょうか?夕方までなら外遊くらいはできますから…」
暁の貌が一瞬で輝く。
「本当に⁈うん‼︎行きたい‼︎」
子どものように喜ぶ暁を見て、月城はそっと微笑む。

…私は貴方の笑顔を見るだけで、例えようもなく幸せなのですよ…。
月城は、心の中でそっと呟いたのだった。



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