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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第1章 夏の華
夜会は華やかに賑やかに中盤を迎えていた。
優雅な夜会の幕開けは、北白川家の麗しき姉妹、綾香が美しいオペラ曲の唄を披露し、その伴奏を妹の梨央がピアノで奏でるという洒落た演出であった。
招待客はその美しい稀有な天使の歌声と、美しく繊細な気品高いピアノに魅せられ、北白川伯爵家の何よりの財産はこの美しく気高く煌びやかな姉妹なのだと改めて納得するのだった。

姉妹の唄とピアノが大盛況の内に終わり、その後は改装を終えたばかりの舞踏室での舞踏会となる。
弦楽四重奏が華やかに軽やかにヨハン・シュトラウスのワルツ曲を奏でる。
そこかしこで、賑やかにワルツの申し込みが行われ、貴婦人達の香水の香りと、上質なワインの香りが蒸せ返るばかりに満ち溢れている。

月城はワインの不足はないか、もてなしに失礼はないか、冷静に密やかに会場を見回る。

…ふと、正面に暁の姿が目に入る。
暁は、礼也の隣にいる初老の紳士と何か話していたかと思うと、その紳士の背後にひっそりと隠れるように佇んでいた白いドレスの令嬢に優しく声をかけ、手を差し伸べた。
令嬢ははにかみながら、おずおずと暁の手に手を重ね、二人はフロアの中央に進み出た。
二人が踊りに加わると、人々の注目を一斉に浴びた。
…それもそのはず…
社交界で人気の高い縣礼也と大紋春馬は昨年次々と結婚し、華やかなホテル王の御曹司、風間忍はパリに義姉と連れ子を連れ、駆け落ち婚をした。

未婚の令嬢の胸をときめかせる美男子で、家柄の良い貴公子が次々に結婚してしまったのだ。
自然と、暁に熱い眼差しが、集まるのは無理のない話しだった。

暁は、礼也や大紋のように雄々しい男性的魅力に溢れるタイプではない。
美しいが、その美しさは耽美な西洋絵画か、古典的な美しい彫像のようだと噂されている。
生々しさのないどこか近寄りがたい美貌は若い令嬢には敷居が高かったらしく、遠巻きに憧憬の視線を送る者が多かったのだ。
…しかし最近は、暁の貌に温かく人好きする雰囲気が醸し出されるようになり、令嬢達からの人気も鰻登りのようだ。

暁が白いドレスの令嬢を優美にリードし、優雅に美しくワルツを踊る。
…月城の前を通り過ぎる。
暁は、ふと視線を月城に向ける。
…美しい、艶めいた微笑み。
きらきらと輝く微笑みに胸が甘く締め付けられる。
…その美しい腕の中にいるうら若き令嬢に、少し嫉妬だけする。




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