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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第1章 夏の華
礼也はここ数日、すこぶる機嫌が良かった。
…なぜなら最愛の弟が久しぶりに帰宅し、泊まっているからであった。

早くも濃い夏の日差しが差し込む朝食室で、妻の光と暁と一緒に朝食を進める礼也は、笑顔で暁に話しかける。

「暁、お前の好きなエッグベネディクトだ。美味しいかい?」
「…はい、兄さん。…とても美味しいです」
暁も美しいが、どこか寂しげな微笑みで答える。
「それは良かった。…暁、今夜もお前の好きなメニューにして貰うからね。楽しみにしていなさい」
子どもを甘やかすように話しかける礼也に、ほとほと呆れたように光が首を振る。
「…礼也さんたら…。まるで暁さんを子ども扱いだわ」
「いいじゃないか、久しぶりに帰宅したんだ。
…暁、私は嬉しいよ。この屋敷でお前の貌をまた見られることが…。お前が家を出て、ずっと寂しかった…」
「…兄さん…」
兄の慈愛に満ちた貌を見て、暁は何も言えなくなってしまった。
困ったように俯く暁に、礼也は真顔で話しかける。
「…暁。…これを機会に、帰ってこないか?」
「…え?」
驚いたように礼也を見上げる暁に
「帰っておいで、暁。…月城との仲を反対している訳ではない。…ただ…やはりお前と彼とでは立場が違う。
これからそのことでお前は辛い思いをするのではないかと思うと、私はやり切れないのだ」
と、諭すように告げた。
「…兄さん…!」
光が美しい眉を顰める。
「礼也さん、それはいくらお兄様の貴方でも行き過ぎた発言だわ。…恋愛は当人同士の問題よ。貴方がとやかく言うことではないわ」
礼也は穏やかな態度を崩さない。
「そうかもしれない。だが私はやはり心配なのだ。
暁には幸せになって貰いたい。…先日のお前は、幸せそうには見えなかった。…他家の執事の月城とでは、すれ違いも多いのではないか?…もっと心安らぐ相手が、いるのではないか?」
「…兄さん…」
兄の優しい気持ちは痛いほど伝わって来る。
本来だったら、同性愛者で他家の執事と恋愛している弟など冷ややかに見ても良いのに、礼也の暁への愛情は変わらない。
それどころか礼也は、暁を以前にも増して愛おしんでくれる。
ありがたいと思う。
…けれど、僕は月城が好きだ…。

…が、その肝心の月城が、先日の夜会では酷く遠い存在に思えた。
…自分を庇ってはくれたけれど、その眼差しには情が感じられなかった。

暁はそっと唇を噛んだ。
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