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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第1章 夏の華
暁は庭園の木陰のベンチに座り、ぼんやりと考えごとをしていた。
…月城…怒っているかな…。
勝手に使用人の領域の階下に降りたのは自分だ。
兄に咎められた時、月城は一言の弁解もしなかった。
自分が悪いと暁を庇い、礼也に頭を下げた。
…たくさんの使用人がいる前で…執事の月城が…。
あのことで、月城の権威は傷付かなかったのだろうか…。

暁の胸が今更ながらに痛んだ。
…僕は…自分の嫉妬の感情ばかり優先して、月城のことを考えてやらなかった…。
月城は、僕の立場を守る為に庇ってくれたのに…!

…どうしよう…。
暁はいてもたってもいられない焦燥感に襲われた。
…月城は、もう僕のことなど愛想が尽きたのではないだろうか…。
暗く沈み込む心に、暁は身体を硬くした。

…その時、庭園のアールヌーボー様式の青銅の柵の向こう側から密やかな声が聞こえた。
「…暁様…暁様…」
はっと振り返る。

…生い繁る楓の樹木の柵の向こう側に、月城が佇んでいた。
「…月城!」
反射的に暁は立ち上がり、彼のもとへと走り出す。

「月城!」
息を切らしながら、青銅の細い柵を掴む。
柵越しに月城が静かに微笑む。
「暁様…」
暁は涙を浮かべて詫びる。
「ごめんね、月城…。僕の為に兄さんに叱られてしまって…。僕が勝手にしたことなのに…」
月城が柵越しに暁の手を握りしめる。
「いいえ。…悪いのは私です。…暁様にお寂しい思いをさせてしまいました。もっと他に言い方もあったのに…。
貴方を悲しませてしまった。許して下さい」
暁は、必死で首を振る。
「違う。悪いのは僕だ。君の立場も考えずに下らない嫉妬ばかりして…。ごめんね…」
月城は、優しく微笑みながら暁の頬を優しく撫でる。
そしてそのまま、その美しく小さな貌を引き寄せると、柵越しに唇を重ねた。
「…んっ…!…月城…愛している…」
くちづけの合間に、愛を囁く。
「…愛しています。暁様…。私には貴方しかおりません…」
「…僕もだ…月城…」
くちづけは深いものになり、その甘やかさに酔い痴れ、暁は柵を強く握りしめる。
睫毛が触れ合いそうな距離で、二人は見つめ合う。
「…帰りましょう、暁様。私はお迎えに上がったのです」
暁は嬉しそうに頷く。
「うん、ありがとう」

背後から厳しい声が響いた。
「待ちなさい。…まだ暁を帰す訳にはいかない」
礼也が硬い表情で二人を見つめていた。


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