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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第1章 夏の華
数日後、月城は北白川伯爵のお供で九条子爵家のお茶会に訪れていた。

品川御殿と言われる九条邸は見事な西洋の城のような造りである。
若き日に欧州に留学経験がある九条子爵が自ら設計した館と庭園は、その美しさと豪華さ、優雅さで名を馳せている北白川邸と並び称されるほどの素晴らしさであった。

テーブルでのお茶会がお開きとなり、紳士は葉巻や煙草、酒を楽しむビリヤード室や客間に移り、夫人や令嬢達は別の客間に移る。
紳士達は政治、経済、軍事などの話題に論議を闘わせ、夫人や令嬢達は、文化、芸術、日常の話…つまりは同じ上流階級の人々の噂話に花を咲かせるのであった。

月城は北白川伯爵に伴い、葉巻や煙草を愉しむ客間の隅に控えていた。
ハバナ産の葉巻や外国煙草の異国情緒溢れる香りが紫煙と共に、広い客間に立ち込める。
そこに加わる上等なブランデーやウィスキーの薫り…。
ここはこれら上等な酒のように成熟し、身分の高い紳士ばかりが集う特別な場所だということを静かに物語っていた。
北白川伯爵は常に華やかな人の輪の中心にいる。
…暁様もこの部屋に来られることもあるのだろうな…。
想像して頬が緩む。
暁は酒は強くはない。寧ろ弱い方だ。
戯れに煙草を吸うこともあるようだが、月城の前では吸うことはない。
暁のように美しい青年貴族が、この中に入り高貴な紳士達と和やかに談笑する姿を思い浮かべると、胸が高鳴るが、同時に自分でも訳がわからない焦燥感のようなものを覚える。
…私がこの場に来賓として加わることは絶対にない…。
暁様はこれから更に地位や名誉を高められることだろう。
縣様は暁様を縣財閥を統べる一人として気高く、立派にお育てになろうとされている。
暁様はそのお人柄から、控えめな振る舞いをされるが、頭脳は明晰でいらっしゃるし、お仕事もお出来になる…。
…その上にあの美貌だ。
…これから益々、社交界の華として大勢の注目と憧憬を集められることだろう…。

…それは喜ばしいことだ…。
喜ばしいことだが…
…いつかは私の手の中から飛び立たれるのではないかという不安を打ち消すことが出来ない…。

…所詮、私と暁様とでは身分が違うし、住む世界も違うのだ…。
月城はふっと自嘲的な笑みを浮かべる。
…分かっていたことではないか…最初から…。
…分かっていたが…。
それをまざまざと思い知らされると、心は騒めく…。


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