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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第10章 初月の夜も貴方と
…土鍋の中には出汁を吸い尽くした餅がまるでアメーバーのようにだらし無く鍋を覆い尽くしていたのだ。

「…ちょっ…ど、ど、どうしよう…!…え、海老は…入れていいのかな…いや、それより…この溶けたお餅を…どうしたら…」
動揺しながら、いとのメモを見返す。
「…お餅はすぐに柔らかくなるので煮過ぎに注意…て…いとさん!最初に書いておいてよ!」
つい、いとのメモに八つ当たりしてしまう。

…すると、じたばたと焦る暁の肩がひんやりとした手に覆われた。
「どうされたのですか?暁様」
はっと振り返る先には、既にきちんと私服に着替えた月城が、佇んでいた。
青いストライプのシャツに濃紺のセーターを着た月城はとても若々しく、水際立った男前ぶりだ。
暁はつい見惚れてしまう。
だがすぐに…
「…だ、だめ…!来ちゃだめ!」
無様な鍋の中身を見られまいと必死に月城を押し返す。
「暁様?」
「だめだめ!見ないで…」
…しかし背の高い月城は暁がどうブロックしても簡単に鍋の中身を見下ろすことができてしまう。

月城は正体不明の物質と化した餅と、調理台の作りかけの材料を見て一瞬で全てを悟った。
「…暁様…」
暁は真っ赤になりながら、拗ねたように月城の胸に貌を埋める。
「…君に…故郷のお雑煮を作ってあげたかったんだ…」
蚊の鳴くような声を聴き、月城は暁を強く抱きしめる。
「…暁様…。愛しています…」
「…月城…」
男の胸の中からそろそろと貌を上げた暁の唇がそっと優しく塞がれたことは言うまでもない。



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