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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第10章 初月の夜も貴方と
食卓には見事な三段のお節の重箱と、睨み鯛…そして朱塗りのお椀には出汁を吸い尽くし溶けて伸びきった餅が寄そわれて、恭しく黒塗りの膳の上に置かれていた。
…車海老は月城があっと言う間に見事な手捌きで捌き、からりと揚がったいかにも美味そうな天婦羅へと姿を変えていた。

「…さあ、いただきましょうか」
月城が端整な貌に笑みを浮かべ、声をかける。
「…うん…」
暁はいささがばつが悪そうに箸を取り上げる。
「いただきます」
月城は一番最初にお雑煮に手を付けた。
とろとろに溶けきった餅を口に運び、にっこりと笑った。
「とても美味しいです。暁様」
「…む、無理しなくて…いいよ…」
そして…
「…ごめんね。…結局、月城の手を煩わせてしまって…お雑煮だって失敗作で…」
しゅんと俯いて詫びる暁の手を握り締める。
「…暁様。私はこんなに美味しいお雑煮を食べたのは生まれて初めてです」
「そんな…」
握り締めた手にくちづけをする。
「本当です。…私は幸せです。貴方が私の為にお雑煮を作って下さったことが嬉しいのです」
暁は申し訳なさそうに眼を伏せる。
「…月城は…僕を甘やかしすぎる。…こんな…いい年をして何も出来ない男を…。僕は君みたいに完璧な人間じゃない。…不器用だし頼りないし…もっとしっかりしなくちゃ…ていつも思っている。
君みたいに素晴らしいひとに相応しい人間なのかいつも不安なんだ。…だから…そんなに甘やかさないで…」
月城は暁の白く華奢な手を握り締めながら、困ったようにため息をつく。
「…貴方のようにご自分を過小評価される方も珍しい…」
月城のもう一方のひんやりとした冷たい手がテーブル越しに伸ばされ、暁の滑らかな頬をなぞる。
「…貴方はお美しくて聡明で気高くて…けれど幼子のように無垢なお心をお持ちです。…そんな貴方に相応しいかどうか、いつも心配しているのは私の方なのですよ」
「…月城…」
男の優しく美しい声が落ち込んだ暁の心に染み渡る。
…でも…。
暁は寂しげに口を開いた。
「…僕はもう三十路も半ばを過ぎた…。これからどんどん老いてゆく…。君は僕の容姿を褒めてくれるけれど…それも段々衰えてゆくんだ…。それでも君は僕を変わらずに愛してくれるの…?」
…ずっと気掛かりで…胸につかえていた懸念だった。
月城を信じていない訳ではない。
そうではないけれど…不安でたまらないのだ。






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