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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第12章 その愛の淵までも…
…下僕長の深津が温室の奥に佇む月城と暁に気づき、慌てて頭を下げた。
「お話の途中に、申し訳ありません。縣男爵様がお着きになりました」
月城は少しも表情を変えずに頷く。
「分かりました。今、まいります。…さあ、暁様」
月城に優しく促され、暁は桜色の頬のまま男を見上げる。
「…うん」

暁は月城に先導されながら、温室を出る。
入り口で下僕長の深津と…もう一人、まだ若い長身の下僕が頭を下げながら暁を見送った。
…暁はすれ違い様にその若い下僕が自分を見つめる強い視線を感じ、振り返った。
やや神経質な印象は与えるが、思いがけずに洗練された風の美男なその下僕と眼が合う。
…下僕は瞬きもせずに食い入るように暁を見つめていた。
その視線の強さに少したじろぐ。
…新入りの下僕…かな…。
その貌に見覚えはなかったのだ。
暁はさりげなく瞼を伏せ、傍らを通り過ぎた。
美男の下僕は、はっと我に返ったように礼儀正しく頭を下げ続けた。


温室を出て、玄関に続く回廊に脚を踏み入れると、暁は前を行く月城にそっと尋ねた。
「…ねえ、さっきの若い下僕…」
月城は形の良い眉を上げ、暁を振り返る。
「藍染ですか?…先月入ったばかりの下僕です」
「…そう…」
その名前に覚えはなかった。
しかしあの射抜くような鋭い眼差しは暁を見知っているような強さだったのだ。
…たまたまかな…。
考え込んでいる暁に、月城が気遣わしげな口調で尋ねる。
「藍染がなにか?」
「ううん。なんでもない」
月城に言うまでもない瑣末なことだ。
明るく笑って月城を見上げる。
月城は少し硬い表情で暁を見つめていた。
「…彼が気になるのですか?」
意外な言葉に、暁は眉を寄せる。
「…え?」
男はやや憮然としたように唇を歪める。
「…藍染は美男子ですからね」
一瞬呆気に取られ月城のどこか不機嫌そうな貌を見つめ、噴き出す。
「まさか!そんな訳ないだろう」
「分かりませんよ。貴方だって若くて美しい青年はお嫌いではないはずです
…そんなにお笑いにならなくても…!」
尚もくすくす笑う暁を腹立たしげに見遣る月城の腕に、そっと触れる。
「月城。…君は誰よりも美しく魅力的だ。…僕は君以外のひとに惹かれたりはしない。…だって僕には…」
…君以上に愛するひとなんて、現れる訳はないのだから…。
月城は暁を抱き締めないよう自制するので精一杯だった。









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