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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第12章 その愛の淵までも…
「…私は私的なことを職場で話すつもりはありません。また、暁様のことを他人が軽々しく話すのを見聴きするのも好みません。
少し乱暴な言い方をすれば、不愉快です」

藍染はふっと笑い、狼狽もせずにすらすらと謝罪を述べた。
「これは…大変失礼いたしました。
僕は暁様が如何にお美しく、魅力的な方かをお伝えしたかっただけだったのですが…。
どうやら月城さんにご不快な思いをさせてしまったようですね。
もう暁様のことを口にはいたしません。どうぞお許しください。
…では、これで下がらせていただきます」
完璧な謝罪に、月城は無機質に挨拶を返す。
「ご苦労でした」

藍染がドアの向こうに姿を消し、その足音が遠ざかると月城は端正な眉を顰め、息を吐く。

…大人気ない振る舞いをしてしまった。
藍染は若者にありがちな好奇心で、話しただけかも知れないのに…。

…だが…。
あの表面的な美しい笑みを、月城はどうしても信用する気になれなかったのだ。
淀みなく謝辞を述べながら、彼の眼は冷え冷えとするようなしたたかさを秘めていたような気がしたのだ。

そこまで考えて、月城はふっと頭を振る。
…馬鹿な…。
藍染はまだ何も失態を犯してはいないではないか…。
暁様の美しさに惹かれるものがいるのは、至極当たり前のことだ…。
今までもそのようなことには何度も遭遇したではないか…。

…私は、暁様のことに限ってはどうしても冷静になれないのだ…。
…暁様だけが、私の心を狂わす…。

月城は暁に想いを馳せる。
…今頃はもうお寝みになっておられるだろうな…。

寝台で、さながら眠り姫のように静かに眠る暁を思い浮かべ、心が和らぐ。
暁の寝顔は、天使のように清らかで麗しい…。
何度見ても見飽きることはない。

…お寝みなさい、暁様。…どうか良い夢を…。
心の中で、暁にキスを送る。

月城はようやく静かな笑みを浮かべると、再び日誌を開いたのだった。



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