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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第12章 その愛の淵までも…
急に沈み込んでしまった暁に、藍染は慌てて言葉を添える。
「あの、月城さんはきっと暁様を他の人にお見せしたくなくて、そうおっしゃったのだと思います。
お二人の関係を隠したい訳では決してないと…」
「ありがとう。…けれど、確かに月城の言うように僕たちの関係はわざわざ吹聴するようなものではないし…。
月城の言う通りだと思う…」
自分で口に出して言うと何となく寂しさが募ってゆく。
…月城は、他所ではそんな風に考えていたのかな…。
本当はやっぱり語るべき関係ではないと思っているのかな…。
執事と言う職業柄、それは至極当たり前の考え方なのだと思いながらも、他人の口から聞かされるとどうしても動揺してしまう。
「…月城さんは贅沢ですよ」
やや怒りを含んだような声に、物思いから覚めて傍の青年を見上げる。
澄み切った黒い瞳が真っ直ぐに暁を見つめていた。
温度の高い眼差しが暁を捉える。
「僕が月城さんならば、貴方のことを世界中の人々に知られても構わない。…いや、むしろ自分から全ての人に伝えたい…貴方が僕のものだと…」
「…藍染くん…」
余りに真に迫った言葉に、暁は思わず後退る。
我に帰った藍染が慌てて詫びる。
「すみません。…つい…。暁様を驚かすようなことを言ってしまい…。お願いです。僕を怖がらないで下さい。嫌いにならないで下さい」
懇願するように手を取られ、暁はびくりと身体を震わせる。
「…き、嫌いになんてならない…だから…手を…」
「ああ、すみません!つい…夢中になってしまって…」
藍染は素早く手を離し、暁から少し距離を置く。
暁は深く息を吐くと、笑顔を作ってみせた。
「年上の癖に動揺してしまって恥ずかしいよ。
…あの…今日は本当にありがとう。君が手伝ってくれてとても助かった」
藍染のやや冷たい印象を与えがちな端正な貌が一瞬で輝いた。
「本当ですか?…じゃあ…また手伝いに来ても良いですか?僕は休みの日は毎週ここの子ども達に勉強を教える約束をしたんです。だから暁様さえよろしければいつでもお手伝いします」

断る理由は何もない。炊き出しやバザーなど慈善活動はいつも人手不足なのだ。
暁は穏やかに微笑んだ。
「君さえ良ければ…」
「ありがとうございます!また、貴方にお会いできる」
無邪気に喜ぶ青年に思わず笑みがこぼれる。

タクシー乗り場はもうそこだ。
「…ここでいいよ…」

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