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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第12章 その愛の淵までも…
「そうですか…」
残念そうな貌をする青年に微笑みかけると、暁は別れを告げる。
「それじゃ、またね…」
停まっているタクシーに歩き出した時、藍染の声が暁を呼び止めた。

暁はゆっくりと振り返る。
「あの…。今日、僕と暁様が教会で会ったことを月城さんには内緒にしていただけませんか?」
暁は美しい眉を顰める。
「なぜ?」
藍染は困ったように笑った。
「月城さんは、僕が暁様とお会いしたことを良く思われないと思うんです。…暁様のお話をしただけで叱られましたから…。もし、お知りになられたら、炊き出しのお手伝いも反対されるかも知れません」

暁は苦笑しながら首を振る。
「月城はそんな狭量で意地の悪い人間ではないよ。
彼はとても寛容で温かい人だ。…整い過ぎた容姿で分かりづらいかも知れないけれど…」
…そう。月城はとても心が広く優しい人間だ。
誰にでも公平で誠実な月城…。
それは暁の誇りでもあった。

「…けれど、君が嫌なら言わないでおこう。君が勤めづらくなってもいけないからね」
年長者らしく優しく対処する。

「ありがとうございます!」
藍染は爽やかに笑って…そして、暁の耳元に囁くように告げた。
「…二人だけの秘密ですね…」
はっと長い睫毛を震わせ、見上げた青年の瞳には艶やかな色香が漂っていた。
暁はぎこちなく背を向ける。
「それじゃ、またね…」
「また、お会いする日を楽しみにしています」
藍染の言葉を聞きながら、暁はタクシーに乗り込んだ。



…暁の乗ったタクシーが視野から消え去っても尚、藍染はその場から離れなかった。
薄墨色の夕闇の中に、かの人の面影をなぞり続けるように…。

「…やっと見つけたよ…。こんなところにいたんだね…。染乃…」
藍染のひやりとした微笑みはやがて暗闇に溶け、そうして何も見えなくなった…。
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