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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第12章 その愛の淵までも…
暁は咄嗟に手を引っ込めようとした。
「…やめて…」
逃げる暁の手を捕まえ、藍染は更に強く握りしめる。
暁を熱い眼差しで見つめ、低く囁く。
「僕は月城さんが許せない。…暁様にこんな悲しい思いをさせる月城さんが…!
月城さんは貴方が彼を思うほどに、貴方を愛しているんでしょうか…?…僕には到底そうは思えません!」
暁は渾身の力で男の手を振り解く。
カウンターから立ち上がり、後ずさる。
「やめてくれ!…君に…何が分かるんだ!君に月城の何が…!僕と月城のことを何も知らない癖に…!」
藍染は少しも動揺することなく、答えた。
しかし、その答えは暁の想像の範疇を超えたものであった。
「確かに僕はお二人のことを何も知りません。…けれど、僕は貴方が好きです」
暁の美しい瞳が驚愕で大きく見開かれる。
…彼は一体、何を言っているのだ…?
その瞳を追い求めるかのように、藍染の眼差しが暁を強く捉えて離さない。
そうして、あたかも美しい詩を暗誦するかのように語り始めた。
「貴方が好きだ。…出会った時から…僕は貴方に恋をしてしまった。貴方のことを一日中考えています。昼も夜も…考えるのは貴方のことばかりだ。貴方に会いたくて会いたくて、夜も眠れない。
眠れぬ夜の儚い夢に出てくるのは、貴方の面影ばかりだ。
…だから腹立たしいのです!貴方の愛に傲慢な月城さんが!」
突然に熱く愛を掻き口説く男から、暁は首を振り背を向ける。
そして感情を抑えた硬い口調で言い捨てる。
「やめてくれ。そんな話は聞きたくない。僕は…僕は月城を愛している…信じている…。
僕は彼の口から聞かされた言葉だけを信じる。
…それから、僕は月城以外の人を好きはならない。絶対にだ。
…だから、もう帰ってくれ。そして二度と僕にこんな話はしないでくれ」
藍染は震える華奢な背中を見せたままの暁をじっと見つめ…やがて静かに一礼をすると、そのまま店を後にした。

ドアに取り付けたカウベルが、軽やかに鳴り終わる。
藍染が出て行ったのをその音で確かめると、暁はどさりと椅子に座り込んだ。

…月城が…梨央さんと…?
嘘だ…嘘だ…!
そんなこと、信じない…。
僕は月城を信じている。
彼を信じている。
…彼を信じて…信じて…信じて…

暁は自分に言い聞かせるように、不安がひたひたと押し寄せる胸の内で、いつまでもその言葉をたどたどしく繰り返し続けていた。



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