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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第12章 その愛の淵までも…
暁の手が震え、その拍子に桜の花弁がはらりと散る。
「…え…?」
「こんなこと…告げ口するみたいで言いたくなかったんですが、確かにお二人は抱き合っておられました。
…まるで恋人同士のように長く…とても激しく…」
「嘘だ!そんな訳ない!」
思わず藍染の言葉を遮り叫んでいた。
普段、他人に大声をあげたことなどついぞない暁は、はっと我に帰る。
「…つ、月城は…梨央さんがお小さい頃からずっとお世話をしているんだ。…だから、きっと…親愛からくる抱擁をしていただけだ…」
必死で自分に言い聞かせるように言葉を繋ぐ。
…それに…第一、梨央さんは綾香さんと愛し合っていらっしゃるのだから…そんなことをするはずがない。
頭の中で絶え間なく安心材料を探す。
「…申し訳ありません。僕が余計なことを申し上げたばかりに、暁様のお心を乱すようなことに…」
…聞きたいのはそんな言葉じゃない…!
唇を噛み締めて、苦い思いを押し殺す。
「…本当に…君は…見たの…?」
「…はい。…お二人はまるでお似合いの恋人同士のようでした。
…今、お二人はとても仲睦まじくていらっしゃいます。綾香様が神戸に行かれてから、梨央様は月城さんをずっとお側に置かれて…。
屋敷の使用人達も、まるで昔の梨央様と月城さんに戻ったようだ…と申しておりました」

暁は言葉を失う。
…昔の…。
そう…確かに綾香が現れる前、梨央は月城を一番信頼し、そして恐らくは愛していたに違いない。
月城は言わずもがなことだ。
…彼の初恋のひとは梨央さんなのだから…。

暁は月城を信じている。
信じているが、月城の心の中までは知る由はない。
彼がまだ梨央を愛している気持ちが全くないとは言えないだろう。
…ましてや、二人はいつも一緒にいるのだ。
想いが近づき、慕わしい気持ちになっても不思議はない。
暁は月城の愛を信じているが、それが永遠に続くのだろうかという危惧を常に持っていた。
…何かの弾みに、この信じられないような幸せが手のひらからすりぬけてゆくのではないかという恐れを、心の何処かでいつも感じていたのだ。
暁の白い手が、カウンターの上で無意識に強く握りしめられる。

…その手に藍染の大きく逞しい手が重なる。
びくりと震える暁の手を封じ込めるように、その手が強く握り込まれた。


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