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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第12章 その愛の淵までも…
月城の氷の彫像めいた冷たく整った貌が不意に苦味を帯び、引き締まる。
「…何を言っているんだ?君は…」
「貴方の大切なお美しい暁様ですよ。…貴方、暁様はいつまでもご自分をおとなしく待ち続けていると高を括ってやしませんか?…愛されているひとは傲慢ですからね。
待つひとの身になったことがない。
お気の毒に…暁様はこんな不実な男をいつまでも健気に待ち続けていらっしゃる。あんなにお美しく純粋なひとが…。
…優しさってなんですか?その場しのぎの偽物の言葉をかけることですか?貴方はそれすらもしようとしないのに。よくもまあ他人に忠告など出来るものですよ。
笑止千万とはまさにこのことです。
…仕事があるので失礼しますよ」
小さく笑いながら階段を降りようとする藍染の腕を思わず掴む。
「…君は暁様にお会いしたのか?」
振り返る藍染の瞳にはもう笑いは残っていなかった。
「…さあね。そんなことまで説明するほど僕は親切ではありませんよ。
ご自分で暁様にお聞きになれば良いんだ。
北白川伯爵家が誇る完全無欠な美貌の執事様…。
…ああ、でも貴方は伯爵とご令嬢に唯一無二の忠誠を誓われているから、屋敷を抜け出して職場放棄するなんてことは考えにも及ばないことでしょうね。
…つくづくお可哀想な暁様だ」
月城の腕をするりとすり抜け、階段を降り出す藍染の背中を鋭く呼び止める。
「待ちなさい、藍染!」
藍染は振り返ることなく、唄うように呟いた。
「…お二人の愛を過信されないことだ。
…そんなもの砂上の楼閣…。一波来たらあっと言う間に崩れ去ってしまうのですよ…」
そうして彼は滑るように階段を駆け降り、階下室へと姿を消したのだった。
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