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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第12章 その愛の淵までも…
朝起きると同時に隣のシーツを探る。
これが暁の無意識の習慣になってしまった。
愛おしい男の温もりを探す…。
暁を抱き寄せる力強く逞しい腕を探す…。
…けれど、冷たく白いシーツが手のひらを滑るばかりだ。

…もう二週間だ…。
暁は広い寝台の上で溜息を吐いた。
なぜ、連絡すらくれないのだろう…。

唯一、電話があったのは、一週間ほど前…しかも家政婦のいとへの伝言であった。
自分が不在だったのだから仕方がないが、いとから聞いた伝言は
「しばらくは帰宅が出来ない」
この一言のみだった。
「北白川のお嬢様のご入院が、長引いていらっしゃるご様子ですよ…」
いとはそう気遣わしげに、言葉を添えた。
「…そう…」

…梨央さんに付き添っているのか…。
暁の胸がちくりと痛む。
付き添って当然だ。
綾香さんがご不在の今、梨央さんの心の拠り所は月城のみなのだから…。
…けれど…。

先日の…月城が梨央に口移しで息を吹き込んでいた…あの状況がまざまざと脳裏に浮かぶ。
暁は思わず目を閉じた。
…あれは呼吸困難になった梨央への救命措置だと分かっているのに、心の棘は抜けない。
月城に会えれば…言葉さえ交わせば…直ぐに溶け去る棘なのに…。
…そして、藍染のあの一言もまた暁の心に薄暗い影を落としていた。

…「月城さんと梨央様は抱き合っていらっしゃいました」
見間違いに違いない。
また、見間違いでないにしても、恐らくは色恋のそれではないはずだ。
…なぜなら、月城は自分を愛してくれているから…。
その言葉を心の拠り所のように何度も繰り返す。

…しかし、月城の不在と暁の仕事上での多忙は、その言葉すらも次第に擦り切れさせていった。

暁はもう月城の不在に耐えられなくなっていった。
…一人取り残される孤独は、母を亡くし一人になったあの寂寞と恐怖を呼び起こしたのだった。
…一人は嫌だ…嫌だ…!
暁は思わず貌を覆う。
…と…浮かんだ明るい光…。
…その光を背に佇むひと…

その男の貌を心が捉えた瞬間、暁はゆっくりと息を吐くことが出来た。

…暁は、いとにだけ行き先を告げると、家を後にした。
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