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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第12章 その愛の淵までも…
「今夜は暁の好きなブイヤベースだ。ドーバー産の平目もあるぞ。たくさん食べなさい。…また少し痩せたのではないか?それ以上痩せたらせっかくのお前の美貌が台無しだ。
…ここにいる間はしっかり食べるように。
ワインは口に合うかな?お前は甘口のドイツワインが好きだったな。リドボーの煮込みの時はフォン・ウィニングの赤ワインにしよう」
礼也は子どもに言い聞かせるように、暁を隣の席に座らせ、あれこれと世話を焼く。
向かい側に座る光が呆れたように首を振る。
「…礼也さんたら…まるで暁さんを子どもみたいに…。
暁さんが困っていらっしゃるわよ」
「いえ、そんな…。兄さんのお心遣いは嬉しいです」
慌てて返答をする暁を礼也は愛おしげに見つめる。
「昔の暁はとにかく痩せていて小柄で、どうやって大きく育てようかと料理長と思案したものだよ。思春期を過ぎても食が細くてね…。
それでも私と食事をする時はきちんと食べたから安心したがね。私がいないと半分も口をつけないと、生田がよく心配していたよ」
「…兄さんがいないと、食事が味気なくて…」
恥ずかしそうに答える暁の頬を軽く抓る仕草は昔のままだ。
温かな兄の手が暁の心に染み入る。
「お前はいくつになっても私の可愛い小さな弟だよ」

光が諦めたように琥珀色のイブニングドレスの肩を竦め、隣の司に囁く。
「…すごい溺愛ぶりでしょう?さすがの私も嫉妬するいとまもないほどよ。これでは月城さんがお可哀想…」
司は苦笑しながら、答える。
「暁さんは、どこか人の庇護欲を唆る方ではありますね。
…僕の父も随分暁さんを可愛がっていましたよ。…過去に何かあっても不思議はないくらいに…ね…」
光は目を見張って見せ、改めて暁を見つめる。
「…確かに暁さんには独特の美しさと儚さと脆さがおありだわ。男女問わず惹きつけずにはいられない魔力のようなものがね…。
礼也さんも無意識に惹かれているのかも知れないわね…。もちろん色めいたものではないのは百も承知だけれど…」

…この言葉に尽くしがたい義弟の儚げな花のような美しさと婀娜めいた蝶のような美しさの表裏一体さに、光は今更ながら感嘆せずにはいられない。
美しい男女は数限りなく見てきたが、暁の美しさと艶めかしさは稀有なものだった。
…この美しさが、禍とならないと良いのだけれど…。
光はふと予感めいたものを感じながら、暁をみつめるのだった。
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