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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第12章 その愛の淵までも…
「…月城…!」
月城は冷たく整った彫像のような表情を少しも揺るがせずに、ゆっくりと二人の前に進んだ。
…ずっと会いたかった男が目の前に現れたというのに、暁の貌は強張り、それ以上の言葉を持てなかった。

大紋と二人きりで温室にいるところを見られたという負い目もあるが、月城の冷たい美貌がそれを咎めているような気がして萎縮してしまったのだ。

暁の緊張を察した大紋が庇うように月城の前に出た。
「久しぶりだね、月城くん。
…言わずもがなことを言うが、暁とは何もないよ。君との生活は幸せだと惚気話を聞かされていただけだ」
戯けたような口調で牽制する。

月城は形の良い唇に薄く笑みを刷き、優雅に一礼してみせる。
「恐れ入ります。けれど大紋様にお気遣いいただくまでもございません。
…私と暁様は至極上手くいっておりますので…」
月城らしくない皮肉な言葉に暁ははっと彼を見上げる。
大紋はその言葉に少しも気を悪くする様子もなく、眼を細めてにやりと笑った。

そして…
「…僕は失礼するよ。そろそろ礼也が痺れを切らしている頃だ」
と、スマートに二人の間を去りかけ…暁の耳元に優しく囁いた。
「…ちゃんと仲直りするんだよ」
「春馬さん…」
しなやかに蔓薔薇の茂みの向こうに姿を消した大紋を思わず見つめ…振り返ると、予想外に冷たい眼差しをした月城の視線にぶつかる。

「…お邪魔だったようですね」
聞いたことがないような冷ややかな言葉が発せられた。
驚いて息を飲む暁に、重ねて温度のない声が続く。
「…貴方はまだ大紋様のことがお好きなのですね」
暁は眼を見開く。
「なぜそんなことを…⁈」
「…大紋様のことをとても切なげにご覧になっておられました。…私が拝見したことのないようなお貌で…」
弁解しようとした暁は、月城の冷ややかな眼差しを見た瞬間、自分の意志と反した言葉が唇から溢れ出すのを止めることが出来なかった。

「…君だって…人のことを言えるのか?」
月城の端正な眉が訝しげに顰められる。
「…君だって梨央さんのことをまだ好きなんじゃないか?」
「何を仰っているのですか?」
今までの猜疑心や寂寥感、不安感を全てぶつける。
「…そうでなかったら、あんな風に梨央さんにくちづけをしないだろう⁈…あんな風に梨央さんを愛しげに抱きしめて…!僕の前で…!」


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