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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第13章 永遠の最果て
集会の後には酒宴が始まった。
月城は轟に強引に引き止められ、車座に加わった。
月城も轟の現在の生活を知りたかったのだ。

轟は活動で知り合った女性と結婚し、子どももいた。
「今、二人目がお腹にいるから今日は来られなかったんだ。お前に会わせたかったな。
…いや、お前のような美男子に会わせたら魂を奪われてよろめいてしまうかも知れんな」
ユーモアと時折出る国訛りは以前の轟だ。

月城は静かに口を開いた。
「…奥さんや子どもは大丈夫なのか?お前がこんな危険な活動をしていて…ましてや身重の身で…」
憲兵や特高による危険分子の取り締まりは日毎酷くなっている。
例え女であろうと情け容赦なく逮捕され、拷問に近い責め苦をされ、自供に追い込まれるのだ。

轟は一瞬、苦しげな眼差しをしたが、安酒を一気に煽り、低い声で言い切った。
「覚悟の上だ。女房は誰よりも俺の理解者だからな」
月城は眉を顰める。
「そんな…。奥さんをそんな危険な目に合わせて、何が理想だ。私はお前の今の考えには共感できない。
大切な人を不幸にしてまで追い求める理想などまやかしだ。
…失礼するよ」

…月城が立ち上がり、向けた背中に冷ややかな声が飛んだ。
「お前はあの美貌のお貴族様と幸せなら、社会の貧困も、矛盾もどうでもいいのか?」
月城の脚が止まる。
ゆっくりと振り返る。
「…何?」
轟が立ち上がり、近づいて来る。
口元には薄い微笑みが浮かんではいるが、その眼はひとつも笑ってはいない。
「縣男爵家のご令息…暁様…。俺たちみたいな底辺の活動家ですらその名は知られているさ。
女と見紛うばかりの美貌、優雅さ、そして妖しげな色気までおありだ。
…おっと!そんなおっかない眼をするなよ。何もお前の最愛の伴侶をどうこうしようって話じゃない。
同性愛に耽るなんて頽廃した貴族趣味は本来なら唾棄すべき存在なんだがな…。
まあしかし、あれだけの絶世の美人なら例え男だろうと勃つかも知れんが…」
車座の若者達が一斉に下卑た笑いを漏らす。
月城は眼鏡の奥の端正な瞳を眇めた。
「…何が言いたい…?…発言によっては私はお前を許さない。私のことはどう揶揄されても構わない。
…だが、暁様のことを貶めることだけは絶対に許さない」
轟は肩を竦めて見せた。
「お前の恋人を貶めるつもりはないさ。
話はただひとつだ。
…月城、俺たちの仲間に入らないか?」
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