この作品は18歳未満閲覧禁止です

  • テキストサイズ
夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第13章 永遠の最果て
帰る道すがら、月城は轟のアジトとも言うべき家を振り返り、溜息を吐いた。
カーテンはしっかりと閉められ、人がいる気配すら感じられない。
しかしあの中では、万が一露見したら命も落としかねない危険な活動が成されているのだ。

…轟は…変わってしまったな…。
昔は、豪放磊落でおおらかで…あんな風に狂信的な眼をするような男ではなかった。

月城と轟は帝大の同期であった。
当時、轟は内務大臣の書生として屋敷に住み込みで働いていた。
月城も北白川伯爵家に見習い執事として仕事をしながら大学に通っていたので、境遇が似ていた二人は直ぐに仲良くなった。

熊本の貧農の村の出身で朴訥な方言で話し、柔道の猛者だという轟は、自分にない明るさとのどかさがあり、月城は彼といると自然に寛げる自分を感じていたのだ。

轟は生真面目で優しい性格であった。
日本の貧困地方の現状を嘆き、何かできることはないかと常に考えていた。
だから自らが政治家となり、日本を変えたい…日本から貧困を無くしたい…誰もが平等に生きられる社会を作りたい…と、高い理想に燃えていたのだ。

若かった月城は轟の志の高さと純粋さに惹かれ、羨ましくなることもあった。
貴族の主人に仕えている執事の自分には心から共感できる理想とは言えなかったが、それでも轟の真っ直ぐでひたむきな性格と思想は好もしいものだったのだ。

…轟は大学卒業後、自分が仕える内務大臣の第一秘書となった。
お互い多忙な為になかなか会えない日が続いていたが、数年前、轟が秘書を辞めたとの風の便りを聞いた。
身体でも壊し、郷里に帰ったのかと案じていた矢先、偶然新宿の雑踏の中で再会した。

轟は風貌すらも変わってしまっていた。
一瞬、轟とは分からないほどであった。
「お前に見てもらいたい所がある」
そうやや強引に連れて来られた場所は…。
古びた建物の地下…。
小さな建物の中には驚くほどにたくさんの若者が集い、その熱気たるや眼を見張るものがあった。

若者達のアジテーション…。
聞こえてくる言葉は反政府、反体制を呼び掛け、一致団結しようとするいわゆる危険分子の運動のそれであった。
絶句する月城に、轟は瘦せこけても尚鋭い眼差しに光を灯し笑った。
「…これが俺の生きる道だ」

轟は、反政府主義運動のリーダーとなっていたのだった。
/954ページ
無料で読める大人のケータイ官能小説とは?
無料で読める大人のケータイ官能小説は、ケータイやスマホ・パソコンから無料で気軽に読むことができるネット小説サイトです。
自分で書いた官能小説や体験談を簡単に公開、連載することができます。しおり機能やメッセージ機能など便利な機能も充実!
お気に入りの作品や作者を探して楽しんだり、自分が小説を公開してたくさんの人に読んでもらおう!

ケータイからアクセスしたい人は下のQRコードをスキャンしてね!!

スマートフォン対応!QRコード


公式Twitterあります

当サイトの公式Twitterもあります!
フォローよろしくお願いします。
>コチラから



TOPTOPへ