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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第13章 永遠の最果て
はっと振り返るその先に、大紋の温かい笑顔があった。
「ノックしたのだがね。返事がないから入ってきてしまった。…どうしたの?そんな暗い貌をして…」
「…春馬さん…」
「店の帳簿を店長に返そうと思ってね。…暁がいるとは思わなかった。会えて嬉しいよ」
…屈託無く笑いながら、暁が咄嗟に隠したマルクスの本をしなやかな所作で取り上げる。
「…あ…!」
その分厚い本をパラパラと捲りながら、咎めるわけではなくのんびりと呟く。
「…マルクスか…。僕も学生の時、少しかぶれたよ。懐かしいな…」
大紋は悪戯めいた眼差しで笑いながら、本を暁に返す。
「…結局、自分は恵まれた立場からの高みの見物と思い知らされて、あっさりと熱は冷めたけれどね。
…どうした?暁に遅めの反抗期が来たとは思えないが…?」
暁は俯く。
「…君は僕には嘘は吐けないよ。何しろ十四歳からの君の全てを知っているからね…」
カウンターに頬づえを突いて暁の貌を覗き込む。
「…何があったの…?こんな物騒な本を隠して読んでいるなんて…」
「春馬さん…」
大紋の温かな眼差しに包み込まれると、全てを吐露してしまいたくなる。
この胸に渦巻く得体の知れない不安を…何もかも…。
…が、しかし…。
「何でもないんです…。少し…興味があって…手にしただけです。…もう…捨てます…」
近くの屑篭に本をわざと乱暴に投げ入れる。
…春馬さんに悩みを打ち明けることは容易い…。
けれどそれでは何も進歩しない。
僕はいつまでも春馬さんに頼り切る甘えた子どものままだ…。

暁は大紋を安心させるように明るい笑顔を作った。
「…何でもありません。…これは…僕の問題です。
僕が自分で解決しなくてはならないのです」
「暁…」
心配気に口を開く大紋をそっと制する。
「…大丈夫です。僕は…強くならなくてはいけないのです。いつまでも春馬さんに頼る訳にはいきません」
…でも…と、潤んだ美しい瞳でそっと微笑んだ。
「…心配していただいて…嬉しかったです…。ありがとうございます」
大紋は小さく溜息を吐いて苦笑した。
「…何だか寂しいな。…僕はいつまでも君の心配をしていたかったんだがね…だって僕は…」
…と言いかけて
「…いや、やめておこう…。やっと凪いだ心を自分で掻き乱す必要はないな…」
やや寂しく笑ったのだった。
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