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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第13章 永遠の最果て
…憲兵隊の…しかも上級将校が暁に何の用なのだ⁈
不安が胸を支配した時、傍らの礼也が雄々しい貌を引き締め、その将校に近づいた。
「私は縣礼也、この家の当主です。弟に何の御用ですか?」
将校はちらりと礼也を見ると、関心なさ気に繰り返す。
「俺は縣暁に用があるのだ。兄貴の方じゃない。弟はどこだ?」
「今宵はご招待した方々のみで催す夜会です。
申し訳ありませんが、貴方をお招きした覚えはありません。どうぞ速やかにお引き取り下さい」
静かに手を扉に向かい差し出した礼也に、怒りに駆られた部下の憲兵が叫ぶ。
「貴様、少佐になんという無礼な口を聞くのだ!」
「無礼は貴方がただ。我が家の夜会はご招待した方以外を中にお入れする訳にはまいりません。
…このように無作法で礼儀知らずな方に、私が弟に会わせるとお思いですか?お帰り下さい」
部下の憲兵が気色ばんで食ってかかろうとした時…

「お待ち下さい。縣暁は私です」
美しく通る声が聞こえた。
大広間の扉が開かれ、黒い燕尾服姿の暁が現れた。
場内の招待客達から一斉に溜息が漏れる。

大紋も思わず、目を細めた。
…相変わらず…美しい…。

漆黒の黒い絹糸のような髪はきちんと撫で付けられ、その一筋の髪が白皙の額にはらりと落ちているのもあえかな風情がある…。
優美な眉、その下に瞬くのは黒く濃い睫毛…そして潤んだ夜の湖のように憂いと神秘性を秘めた黒い瞳…。
形の良い鼻梁…そしてその唇は花にも例えられるような艶やかさであった。
細身だが、バランスの良いスタイルを見せながら、暁は静かに憲兵隊の将校の方へと歩み寄る。

静かな靴音に振り返った将校の貌付きが変わった。
一瞬、虚をつかれたような無防備な表情を彼はした。
それは、明らかに暁の類いまれなる美貌に一瞬とはいえ、心を鷲掴みにされたような表情であった。

だが、直ぐにその酷薄そうな貌を引き締めると、薄い唇の端を上げて暁を見た。
「お前が縣暁か?」
暁はまるで初めて会う大切な人に向けるような極上の微笑みを彼に与えた。
「人に名前を尋ねる時は、先ずはご自分が名乗られるのが礼儀ではありませんか?」
美しく優美な貌から発せられるとは到底思えぬ辛辣な言葉に、男は息を呑んだ。
傍らの部下が唸り声を上げるのに片手で制し、気まず気に咳払いをする。

「…俺は鬼塚徹。憲兵隊東京本部の少佐だ」




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