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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第13章 永遠の最果て
「鬼塚少佐ですね。初めまして。私に何のご用でいらっしゃいますか?」
暁は黒眼勝ちの瞳をひたりと鬼塚に当てる。
今度は鬼塚は初めて見る美しい美術品を鑑賞するかのように、暁を眺め回した。
「…用件か…。そうだな。…今この公衆の面前で言っても良いのだが…」
形は良いが酷薄そうな唇を歪めて笑う。
「あんたを見て気が変わった」
そうして、黒革の手袋を嵌めた右手を傲慢に差し出した。
「…俺と一曲踊ってくれ。話はその時にしてやろう。
ここはそういう場なのだろう?ブルジョワな貴族や富豪達が西洋の衣装をめかしこんでワルツとやらを踊る…違うか?」
暁の大きな瞳が更に見開かれた。
傍らの部下が鳩が豆鉄砲を食ったような貌をして慌てふためいた。
「し、少佐殿!」

礼也が見るに見兼ねて気色ばんで近づく。
「貴方は!どこまで私の弟を愚弄すれば気が済むのですか⁈」
礼也が鬼塚に食ってかかる前に暁が柔らかく、しかし毅然と押し留めた。
「兄さん、大丈夫です」
「しかし、暁!」
暁は美しい瞳に安心させるような笑みを浮かべ、礼也にユーモアを交えて答えた。
「鬼塚さんも飛び入りとはいえ、我が家の大切なお客様です。…ご要望にはお応えする義務があります」
鬼塚がさも可笑しくて堪らないように笑い出す。
「これはこれは…!ただの温室育ちのお坊ちゃまかと思いきや…なかなかに骨がある男だな」

…そして、固唾を飲んで事の成り行きを見守っている弦楽四重奏楽団を振り返り、高飛車に命令する。
「ワルツとやらを演奏してくれ。このお綺麗なお貴族様に相応しい華やかなワルツをな…」

鬼塚は暁を向き直ると、意外なほどに優雅な仕草で恭しくお辞儀をすると、その黒革の手袋の手を差し伸べた。
「さあ、俺と踊ってくれ。お美しい御令息…暁様」
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