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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第13章 永遠の最果て
屋敷はまるで喪中のような哀しみに満ちていた。
普段騒がしく常に光に叱られている薫ですら、言葉少なになり暁を気遣った。

やや落ち着きを取り戻した暁の部屋の鍵は解かれ、礼也は屋敷の中なら歩き回ることを許可した。
礼也はダイニングで皆と食事を摂るように、暁に勧めた。
しかし、暁は力なく首を振っただけだった。
「…暁…頼むから食事だけは摂ってくれ。…こんなに痩せてしまって…」
礼也は痛ましげに暁の骨の浮いた細く白い手を握りしめた。
「…私を憎んでいるか…?」
礼也がため息混じりに尋ねる。
暁の長い睫毛が僅かに瞬いた。
「憎まれて当然だな。…お前を監禁し、月城を探すことを禁じた。
お前が月城と一心同体だということも良く分かっているのに…。
私は…お前を失いたくないのだ。
お前を失うことを考えると、身体中に震えがくるほどに恐ろしいのだ。
…許してくれ、暁…!」
暁の冷たい手を強く握りしめ、額に押し当てる礼也に、暁は静かに口を開いた。
「…憎んでなんかいません。僕は…兄さんが大好きです。兄さんがどれほど僕を心配して心を鬼にして、こうしたのか…分かっているつもりです。」
…でも…と、聞き取れないほど小さな声で続ける。
「…月城に会えないのなら…僕は生きている甲斐がないのです。兄さんに光さんがいるように…僕には月城しかいない。
…その月城がいない今、なぜ僕は生きているのでしょうか…」
礼也は堪らずに暁を抱きしめた。
暁の身体はそのまま強く抱き竦めればたちどころに折れてしまいそうなほどに痩せて儚げだった。
礼也は心臓がきりきりと痛むのを感じた。
「…そんなことを言わないでくれ。
月城はきっとどこかで生きている。今、優秀な密偵を雇い懸命に捜索させている。
必ず探し出す。探し出して、不当逮捕などにならぬよう全ての有力者に働き掛ける。北白川伯爵も英国から内務大臣に月城の潔白を証明する手紙を書いて下さった。
春馬も動いてくれている。
絢子さんのお父上も内々に憲兵隊の大将に口を聞いて下さった。皆が月城を信じ、無事を祈って行動しているのだ。約束する。必ず探し出す!
…だから、頼む。自分を大事にしてくれ!」

暁の虚ろな眼差しが、礼也の端正だが疲労の色濃い貌を見上げる。
無機質な人形のように美しい貌が哀しげに微笑った。
「…兄さん、僕は兄さんに迷惑ばかり掛けていますね…。ごめんなさい…」

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