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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第13章 永遠の最果て
暁は眼を見開いた。
「…兄さん…」
「…愛しているよ…。…私にはそれが恋愛感情なのか、そうでないのか、最早分からない。
…だが、そんなことはどうでもいい…。
私はお前を愛している。そのことだけが真実だ…」
礼也のしなやかな手のひらが暁の頬を愛撫するかのように優しく撫でる。
暁は眼を細めた。
小さく震える唇が、そっと開かれる。
「…僕もです…。僕も兄さんを愛しています…。
弟としてなのかどうなのか…僕にも分かりません…。
兄さんに初めて会った時から…ずっと兄さんに惹かれていた…。
兄さんはずっと僕のすべてだった…。
僕は月城を愛しています。誰よりも愛しています。
…けれど、兄さんは特別です。
誰とも比較は出来ない…。
…だって、兄さんは僕に人生を与えてくれた…。
暗闇だらけだった僕の人生に光を与えて、力強くて温かい手で僕を日の当たる場所に導いてくれた…。
…だから、愛しています…兄さん…」
「…暁…」

…もう二度と会えないかもしれない。
二人の間に流れる感情が、何なのか…もはや名付ける必要はなかった。
それはどうでも良いことだったのだ。
暁の夜の海原よりも濃く濡れた瞳が誘うように瞬かれた。
まるで優しく妖しい魔法にかけられたかのように、礼也はその薄紅色の唇に唇を重ねた。
…しっとりとした柔らかな唇がやや開かれ、誘うように礼也を押し包む。
柔らかく温かな舌先が礼也の唇をなぞり…彼の舌を密やかに絡めた。
…身体中を駆け巡る甘美な衝撃…。
礼也は我を忘れて、暁の唇を愛おしげに貪った。
切ない吐息を交換するような禁断と背徳のくちづけが、暫し甘やかに交わされる。
永遠のような、刹那のような奇跡のような時間であった…。

…どちらからともなく、そっと唇が離された。
例えようもない天国のような快美感を齎した暁のくちづけを、礼也は死ぬまで忘れないだろうと思った。
二人は同時に見つめ合い、微笑んだ。

礼也はかつて少年だった暁にしたように、額を押し付けると、優しく笑った。
「…行きなさい。暁。そして、月城と幸せになりなさい」

暁は一度だけ強く礼也の背中を掴むと、夜に咲く美しい白い花のような微笑みを浮かべ、頷いた。
「…ありがとうございます。兄さん。…僕は兄さんに頂いた人生で、幸せになります…」

暁が振り返った先には、月城がその怜悧な美貌に穏やかな微笑を浮かべて静かに佇んでいた。
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