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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第14章 Coda 〜last waltz〜
聖夜の晩餐は大紋一家を招き厳かに、けれど内輪ゆえの和気藹々とした雰囲気の中、進められた。
北白川伯爵令嬢の二人は、赤十字主催の慈善コンサートで神戸に出向いており、今年は欠席であった。

…晩餐の話題の中心は薫と暁人と菫だ。
薫がラテン語のテストで落第点を取り、光が激怒して薫を椅子に縛り付け、徹夜で追試の勉強を見てやったこと、暁人が関東馬術大会のジュニア部門で優勝したこと、菫がプレスクールに通い始めたことなど…。
どれも笑いが絶えない話題ばかりだ。

…暁と月城のことは誰も口にはしない。
亡命に近い形で国を離れた二人について、この屋敷では公の場で語ることは使用人を含め、禁忌となっている。
それは、どこから彼らの情報が外部に漏れるか分からない為だ。
彼らの為に、誰も口にはしないのだ。
…だが、皆は常に彼らのことを考えていた。

縣家のクリスマスは今年も華やかに祝われた。
戦時中に敵国の行事を執り行うなどと、白い目で見る人も多かったが、礼也も光も気にしなかった。

玄関ホールの暖炉の前には毎年恒例の大きな樅の木のクリスマスツリーが煌びやかに飾り付けられていた。
「きれい!きれい!」
ツリーに眼を輝かせる菫を見て、礼也は暁を思い出した。
生まれて初めてクリスマスツリーを見た暁は暫く口が聞けないほどに心を奪われ、瞬きもせずにそれを見つめていた。
…兄さん…綺麗…。
美しい瞳を煌めかせ、礼也を振り返って笑った。
礼也は思わず暁を抱きしめた。
「これからは毎年見られる。…私と一緒に…ずっとだ…」
暁は驚いたように眼を見張り…しかしすぐに嬉しそうにおずおずと礼也の胸にしがみつき、頷いた。

ドルチェの前にミンスパイがサーブされ始める。
皿の上の聖夜の伝統料理を前に、礼也が独り言のように呟いた。
「…ミンスパイは暁が好きだったな…」

水を打ったようにしんと静まり返ったテーブルを見渡し礼也がはっと息を呑み、直ぐにぎこちなく笑った。
だがそれは上手く行かず礼也は不意に立ち上がると、
「…済まない。…少し失礼する…」
小さく告げると席を立ってしまった。
「…皆様、どうぞお食事を続けていらして…」
光はそう言い残し、礼也の後を追った。

不安げな貌をする子供たちに大紋が朗らかに笑いかけた。
「さあ、お皿の上の料理を全部平らげた子には小父様からのプレゼントがあるぞ。誰が早いかな?」




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