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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第14章 Coda 〜last waltz〜
光は温室で声を押し殺して泣いている礼也を探し当てた。
それは胸が潰れそうなほどに、哀しい泣き方であった。
光は礼也に駆け寄り、まるで我が子のように抱きしめた。
「礼也さん…!泣かないで…!」
礼也は光に身体を預け、低く答えた。
「…軽蔑するかい…大の大人が…弟がいなくなったくらいで泣くなんて…」
「何を仰るの?軽蔑なんてしないわ!」
怒ったように光が答える。
そして優しい姉のように礼也の髪を撫でる。
「貴方がどれほど暁さんを愛していらしたか…私が知らなかったとでも思っていらっしゃるの?」
「光さん…」
「貴方はとても暁さんを愛していらしたわ。側で見ていて羨ましくなるほどにね」
礼也はぎこちなく弁解をする。
「…誤解しないで欲しいのだが、私は暁をそういう対象として見ていたわけではない。
ずっと…掌中の珠のように大切に思ってきたのだ」
「分かっているわ。貴方が暁さんに邪な感情を抱いていないことも。…でも、貴方にとって暁さんは特別な存在だったのよ。
その暁さんが居なくなって、貴方は生まれて初めての深い喪失感を感じていらっしゃるんだわ」
礼也は美しい妻の鋭い分析に驚いた。
そして、素直に彼女に胸中を吐露した。
「…寂しいよ…。凄く寂しい…。もう、二度と暁に会えないかも知れないなんて…」
…愛していたのだ…。
あの天国のように甘美で切ないくちづけは未だに忘れられない…。
光が子どもを励ますように、礼也の背を撫でた。
「また会えるわ。こんな下らない戦争はすぐに終わるわ」
「…会えるだろうか…暁に…」
…あの美しく…私の心を捕らえて離さない弟に…。
光はその強く煌めく瞳で笑った。
「会えるわ。暁さんにも…月城にも…。いつかきっと、また会えるわ…」
…あの数奇な運命で結ばれた稀有なほどに美しい二人に…きっと会える…。

言霊のような光の言葉に、礼也の胸に希望の灯が宿る。
そしてやや照れ臭そうに妻の貌を見つめ、そっとキスをした。
光は愛おしげにそれを受け…ふと、温室の窓硝子に眼を遣った。

「…雪だわ…」
礼也も外を振り仰ぐ。
…一枚硝子に映し出される射干玉の夜空から、天使の羽のような優しい雪が舞い落ちる…。
聖夜の雪は、暁からの告白のようだ。
…兄さん…僕は兄さんから頂いた人生で幸せになります…月城と二人で…

礼也は光と共に夜空を見上げそっと微笑んだ。
「…幸せになれ…暁…」

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