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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第14章 Coda 〜last waltz〜
…冷えると思ったら、雪か…。
大紋はサンルームの椅子から立ち上がると、扉を開けて広大な庭園に足を踏み出した。
…撃たれた脚の傷が、今も少しだけ痛む。

背後の屋敷からの賑やかな喧騒を微笑ましく思いながら、振り返る。

…礼也は光と話して落ち着いたのか、程なくして大客間に戻ってきた。
少し赤くなった瞳で、大紋を見ると恥ずかしそうに笑った。

光と絢子が子どもたちにクリスマスプレゼントを渡し始めると、部屋には子どもたちの歓声が響き始めた。
その様子をにこやかに眺めていると、礼也が大紋をサンルームに誘った。
「…少し…いいか…?」
やや改まって話がある気配に、珍しいな…と思いながら、礼也に従う。

サンルームの藤の椅子を勧めて、礼也も正面に座る。
「どうした?何か話しでも?」
それには答えずに…
「…うん。…昨日届いた」
礼也がジャケットの内ポケットから取り出したのは、暁からの絵葉書だった。
「今はニースにいるらしい…」
「…ニースか…。いいところだな…。暖かいだろうし…寒がりな暁には合っているかもしれないな…」
…暁は、冬はいつも指先が冷たかった。
その白く細い指先に息を吹きかけ、キスをし、温めてやったものだ。
大切そうに絵葉書を受け取り眺める。
暁の綺麗な筆跡が懐かしい。
思わず、そっとなぞる。

「…春馬…」
「うん?」
「お前…暁と…昔、関係があったのか?」
突然の問いかけに、思わず絵葉書を取り落とした。
慌てて拾い上げ、礼也を見上げる。
礼也の表情は穏やかだった。
責めるような眼差しでもない。
大紋は暫く黙っていたが、やがて観念したかのように深く息を吐き口を開いた。
「…いつ、分かった?」
「お前が撃たれたあの日…。暁はお前にキスをした」
…愛していました…春馬さん…。
あのくちづけとあの言葉は、今も脳裏に蘇る。
…甘く、密やかに…。
懐かしく切ない…愛の記憶だ。

春馬は静かに答えた。
「…ああ。そうだよ。…遠い昔…お前に暁を紹介されたあの日に…僕は暁に恋をした。
突然、落とし穴に落ちたかのように…取り返しがつかないような恋に堕ちた。
好きで好きで堪らなくて…彼に愛を告白して…いつしか彼も僕を受け入れてくれた。
…僕と暁は長いこと恋人同士だった。
…お前に黙っていて、すまなかった」
大紋は、礼也に深く頭を下げた。


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