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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第14章 Coda 〜last waltz〜
…泉のくちづけは熱く激しかった。
司の柔らかな唇を食べ尽くすかのように荒々しく貪り、激しく甘やかに翻弄した。
久しぶりに与えられた濃厚で淫らなくちづけに、司は息もできないほどに淫らに酔わされる。
「…あ…ああ…んっ…は…ああ…っ…」
崩れ落ちそうになる司の腰を、逞しい泉の腕ががっしりと抱き寄せる。
「…司…口を開けて…」
司の薄桃色の可憐な唇をこじ開け、舌を絡めようとする…。
泉の淫靡な甘い声は、悪魔の囁きのようだ。
「…だめ…だれか…きたら…」
司は形の良い眉を苦しげに歪めながら、首を振る。
…万が一…礼也が来たら…泉はどれだけ叱責を受けるだろう…。
礼也は風間家から預かった司に手を出した泉を許しはしないだろう。
「…いいんだよ、司…もう…。俺は正々堂々とお前と愛し合うことにした…」
司の小さな美しい貌を両手で包み込み、優しく告げる。
「…え…?」
白い頬に振りかかる美しい髪をかきあげてやりながら、愛おしげに司の手を握りしめ、白い指先にキスをする。
「…人生は儚くて短い…。こんな時代だ。明日の命だって分からない。俺は…後悔をしたくないんだ。
…それに、お前の一番身近にいてお前を一番に守ってやりたいんだ」

…民間人の渡航が正式に禁じられた今、司は終戦までフランスに帰国することは出来ない。
礼也や光は司を本物の身内のように大切にしている。
「ご両親に会えないのは寂しいだろうが、司くんの家はここだ。ずっとここにいてくれ。私はこの屋敷にいる人間は全て私の家族だと思っている。だから何も心配はしないでくれ」
貴族は一度預かった客人はどのようなことをしても守り通す。
彼は本物の貴族なのだ。

…自分は礼也に遠く及ばないが、司を思う気持ちだけは誰にも負けない。
「…だから、俺は俺の命をお前にやる。俺は死んでもお前は守る。
…例え、東京が焦土と化しても…お前だけは生き延びさせてやる。だから…」

司の人形のように美しい貌が歪む。
怒ったように泉の胸倉を掴むと、噛み付くようにキスをした。
そして涙で滲んだ瞳で睨みつける。
「バカ!バカバカバカ!泉のバカ!僕だけ生き残ってどうするんだよ!そうじゃないだろう⁈二人で生きるんだよ‼︎本当にバカなんだから‼︎バカ!…バ…」
泉への悪口雑言は優しいくちづけに吸い取られ…やがてそれは甘く激しい愛のくちづけへと形を変えていったのだ。

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