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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第14章 Coda 〜last waltz〜
それから二人の転居話は、驚くほどにあっと言う間に進んだ。
フロレアンが尽力を尽くしてくれたお陰で8月の終わりには、二人はニースに向けて旅立つことになったのだ。

出発の朝、風間忍は暁と二人きりになった時、やや不服そうに言った。
「…本当に行くのか?」
暁は済まなそうに風間を見上げた。
「…忍さん…」
「まさか俺たちに気兼ねしているんじゃないだろうな。
俺たちは本当に君たちの力になれるのが嬉しかったんだぞ。人見知りする瑠璃子もすっかり君たち二人に懐いていたのに…」
風間は慌ただしく自分の許から離れようとする暁に、不満と共に寂しさを感じていたのだ。

風間は目の前の奇跡のように美しい男を改めて見つめた。
もう三十の半ばを超えたとは到底思えないほど、瑞々しくもしっとりと艶やかな色香を秘めた美貌を、思わず引き込まれるように見つめてしまうのだ。

…昔…まだ若い頃、この美しい後輩と束の間、恋人同士のような関係になったことがあった。
暁は大紋との恋に破れ、疲れ切って人生に絶望していた。
自分の性的指向を卑下してもいた。
そんな彼を慰め、冷え切った彼の身も心も温めてやりたい衝動に駆られ、抱いた。

暁は、不思議な青年だった。
自分が彼を慰めて抱いているつもりが、逆に彼に柔らかく優しく包み込まれていることに気づいた。
…暁は、どんなに妖しく乱れても快楽に身悶えても、その稀有な透明性は決して失われることはなかった。
その無垢さに、実は風間自身が救われていたのだと気付かされたのはずっと後のことであった。
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