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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第14章 Coda 〜last waltz〜
…初恋の百合子と結ばれ、司と三人でパリで新しい生活を始めてからも、風間は暁のことを忘れたことはなかった。
風間は百合子を心から愛している。
百合子はかけがえのない最愛の妻だ。
…しかし、それとは別に、暁とのあの甘く痺れるような愛の想い出は、風間の心の奥の大切な場所にずっと静かに住み続けているのだった。
だから暁が月城と二人、フランスに渡ってきた時は、ある種の感慨深い想いと共に、かつての疼くような恋の記憶が蘇り、彼を少し落ち着かない気持ちにさせたのだ。
…屋敷の中に暁の姿を見ると、ときめく自分がいた。
暁が自分の許に還ってきたかのような錯覚すら覚えてしまった。
一方、月城と密やかに柱の影でくちづけを交わす暁を見かけ、訳の分からない嫉妬めいた感情にも襲われた。
そんな自分を戒めながらも、やはり暁は自分にとって特別な存在なのだと改めて思い知らされたのだった。
それ故に暁と月城がこの家を離れパリを離れることに、彼を再び奪われるような焦燥めいた喪失感を覚えたのだ。
自分のやや気狂いじみた妄想に苦笑しつつ、最後に念を押してみる。
「仕事をしたいと言うのなら、いくらでも紹介することはできる。暁には通訳や翻訳の仕事…月城くんは俺のホテルで働いてもらっても構わないんだ」
暁の美しい瞳がきらりと光った。
「…偽名を使ってですか?」
風間は思わず絶句した。
ふっと眼差しの強さを和らげ、暁は風間の腕に手を置いた。
「すみません。嫌な言い方をしました。…忍さんのご好意は身に染みて分かっています。
…僕は月城にもうどこからも隠れて欲しくはないのです。
彼には堂々と陽の当たる場所で彼らしく真っ直ぐに人生を生きて欲しいのです。
だから…」
風間は暁の手を握り返し、微笑むと頷いた。
「分かったよ。…暁は本当に月城くんを愛しているんだな」
「ええ。…彼は僕の命ですから」
惚気ではない真実の言葉が、二人の愛の強さを改めて感じさせた。
風間は気持ちを切り替えるように明るく打ち明けた。
「ニースには俺の別荘があるんだ。
バカンスには皆で遊びに行くよ」
暁が目を輝かせた。
「ぜひいらして下さい!」
そうして風間は、昔の彼のように艶めいた声で秘密を告げるように囁いた。
「…暁。お別れのキスをしてくれ。出来れば友達のキス…ではないのがいいな…」
…暁は、夜に咲く白い花のように妖しく微笑んだ。
風間は百合子を心から愛している。
百合子はかけがえのない最愛の妻だ。
…しかし、それとは別に、暁とのあの甘く痺れるような愛の想い出は、風間の心の奥の大切な場所にずっと静かに住み続けているのだった。
だから暁が月城と二人、フランスに渡ってきた時は、ある種の感慨深い想いと共に、かつての疼くような恋の記憶が蘇り、彼を少し落ち着かない気持ちにさせたのだ。
…屋敷の中に暁の姿を見ると、ときめく自分がいた。
暁が自分の許に還ってきたかのような錯覚すら覚えてしまった。
一方、月城と密やかに柱の影でくちづけを交わす暁を見かけ、訳の分からない嫉妬めいた感情にも襲われた。
そんな自分を戒めながらも、やはり暁は自分にとって特別な存在なのだと改めて思い知らされたのだった。
それ故に暁と月城がこの家を離れパリを離れることに、彼を再び奪われるような焦燥めいた喪失感を覚えたのだ。
自分のやや気狂いじみた妄想に苦笑しつつ、最後に念を押してみる。
「仕事をしたいと言うのなら、いくらでも紹介することはできる。暁には通訳や翻訳の仕事…月城くんは俺のホテルで働いてもらっても構わないんだ」
暁の美しい瞳がきらりと光った。
「…偽名を使ってですか?」
風間は思わず絶句した。
ふっと眼差しの強さを和らげ、暁は風間の腕に手を置いた。
「すみません。嫌な言い方をしました。…忍さんのご好意は身に染みて分かっています。
…僕は月城にもうどこからも隠れて欲しくはないのです。
彼には堂々と陽の当たる場所で彼らしく真っ直ぐに人生を生きて欲しいのです。
だから…」
風間は暁の手を握り返し、微笑むと頷いた。
「分かったよ。…暁は本当に月城くんを愛しているんだな」
「ええ。…彼は僕の命ですから」
惚気ではない真実の言葉が、二人の愛の強さを改めて感じさせた。
風間は気持ちを切り替えるように明るく打ち明けた。
「ニースには俺の別荘があるんだ。
バカンスには皆で遊びに行くよ」
暁が目を輝かせた。
「ぜひいらして下さい!」
そうして風間は、昔の彼のように艶めいた声で秘密を告げるように囁いた。
「…暁。お別れのキスをしてくれ。出来れば友達のキス…ではないのがいいな…」
…暁は、夜に咲く白い花のように妖しく微笑んだ。