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溺れる金魚
第3章  姫金魚
「……会長が、孫はまだかと言ってきた。君は、欲しいのか?」



アイボリーとダークブラウンを基調としたダイニングで、朝食を食べている時だった。

彼は経済新聞の記事に目を落としながら一瞬ですらこちらを見ることもなくコーヒーの入ったマグカップをすすりながらそう言った。



これからの二人の人生に関わる大切な話題。

それなのに、それでもこちらを一切見てくれないのかと、彼女は小さくため息を吐いた。




父も母も、早く孫の顔を見たいと特に今年に入ってからはしつこいくらいに電話やメールで彼女に訴えていた。

それを無視し続けていたが、それがいけなかった。まさか、彼にまで言うとは……。




「すみません……。妹が既にお腹に赤ちゃんが居るから、長女の私にもと思ったのでしょう」

妹は高校生の時から付き合っていた恋人と新しい命が授かったことをきっかけに入籍したばかりだった。



最初は反対していた両親も、日に日に大きくなっていくお腹に目を細めるようになり、次第に喜んで受け入れるようになっていた。


妹の夫は元々片親で苦労してきた努力家だったから、父もその人柄を知って受け入れたのだろう。

誠実な彼は父の援助を断り続けていた。




決して裕福ではなくとも、お互いが支え合い信頼し合っていて、紗良は羨ましく思った。
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