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終止符.
第11章 うつろい
「ねぇねぇ聞いた?」

昼休みも終わりに近づいた社員食堂で、後からバタバタと急ぎ足で入ってきた沙耶が、奈緒の隣に腰掛けながら話しかけて来た。

「どうしたの?」

オムライスを食べる手を休めて千秋が言った。

「産まれたんだって。」

声を小さくして沙耶が言った。

「えっ?」

二人が沙耶を見る。

「部長がパパになったんだよ。今、森下さんに教えてもらった。」

「わー、やったね。…ん? でもさ、予定日って12月じゃなかったっけ。」

千秋が聞き返す。

「それがね、破水って言うの? よくわかんないけどさ、破水して病院に行ったら産むのには問題ない週数だからって、そのまま入院してご出産。」

「へ~、よかったね。で、どっちが産まれたの?」

「うふっ、女の子だって。」

「きゃ~、篠崎部長嬉しいだろうね。」

「そりゃそうだよ、待望の我が子だもん。」

奈緒は二人の会話を聞きながらコーヒーを一口飲んだ。

「社長の嬉しそうな顔が目に浮かぶ~。あはは、きっとデレデレだよね。」

千秋が笑う。

「あ…」

沙耶が口をつぐんだのを千秋は見逃さない。

「なに?」

「これは森下さんに口止めされてるんだけど…」

「そこまで言うなら言いなさい。」

「言いなさい。」

千秋と奈緒は沙耶の次の言葉を待った。

「じつは…」

「うん。」

「うん。」

「社長…入院してるらしいの。」

「えっ?」

「なんで?」

「なんかさ、どこかにできたポリープを取るとかなんとか…ほら奈緒、部長、ずっとバタついてたでしょう?」

「あぁ、そういえば…」

「社長の奥様ずっと前に亡くなってるらしいから…」

「そうなんだ…部長の奥様も心配してるだろうね。」

「早く孫の顔を見て元気になってもらわなくちゃ。」

「ねぇ沙耶、森下さんて部長の奥様に会った事あるの?」

奈緒がさりげなく聞いてみる。

「ないみたいだよ。5年位前の結婚式とかも、部長以上の人達だけ出席だったし。」

「あぁ、そういえばそうだった。」

千秋が口を挟んだ。

「どっちにしても、幸せなお嬢様に間違いない。」

「いいなー、お嬢様に生まれたかった。」

「むりむり。あはは。……ところで奈緒。」

沙耶が奈緒を見た。

「ん?」

「あと1週間だね。」

「…うん。あと一息。」

頷きながら奈緒が言った。

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