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終止符.
第2章 綻び(ほころび)
「あ、美味しいです。」

「ありがとうございます。ごゆっくりなさってください。」

純はそう言ってカウンターに戻って行った。

「ほら、素敵。」

「………」

なぜ名字を知っているの?

誰?

奈緒は忙しそうに仕事をこなしている純の顔を見つめながら過去の記憶をたどってみたが、整った顔立ちの青年が、そこに姿を現す事はなかった。

「やっぱさわやかだよね~。」

「………」

「奈緒、聞いてる?」

「聞いてる聞いてる。」

「まったくもー。」

店を出る時に、沙耶が純に軽く手を振ると、純は嬉しそうな笑顔で

「ありがとうございました。」

と言った。

「かわいい~。」

のんきな沙耶は奈緒の疑問にも気付かず、上機嫌で歩く。

そんな沙耶のおかげで、映画を観て、カラオケで歌いまくる頃には、奈緒の疑問も遠退いていた。

夜の11時を過ぎて、最寄り駅に着いた奈緒は、いつものコンビニで朝食用のパンと、暇つぶし用のファッション誌を買った。

篠崎が土日にやって来る事はないので、一人の休日をのんびりと過ごす。

そんな日常だった。

自宅アパートの階段を上がりかけた時、二階から降りてくる人影が見えた。

顔を上げ、もしや篠崎ではないかと相手を確認する。

「あ。」

「えっ。」

顔を見合わせ沈黙する。
純がそこにいた。

「どうして。」

「あはは。こんばんは立花さん。」

純が微笑みかける。

「どうしてあなたがここに…」

「ここ、僕の家なんです。奈緒さんちの隣。」

「えっ?いつから?」

「ん~4ヶ月位になるかな。 何度か挨拶に伺ったんですけど、留守だったり、男性が訪ねて来てたりしたので…。」

奈緒は焦った。

「…どうしてそれを。」

「僕の部屋の前を通る時に、キッチンの窓から見えるし、部屋にいても…その…声が…」

「えっ?」

「あれです。…青少年が耳にするには刺激が強すぎる声、というか…」

「!」

奈緒は声も出せずに唖然としていた。

「あの人、人のものなんですよね。」

「………」

「部長さんなんでしょう? 女子社員に人気の。」

全部バレてしまっていた。

「あなたに関係ないわ。失礼…」

奈緒が純をよけて階段を上ろうとした時、純が呟くように言った。

「不倫なんて辞めてください。」


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