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終止符.
第11章 うつろい
奈緒の右側で多田も空を見上げた。

「帰したくないな…」

「多田さ…」

不意に奈緒は抱きすくめられ、多田の肩越しに夜空が見えた。

「あ、あの…」

「返事を待つ間に気が変になりそうだ。」

多田は持っていた奈緒の花束を地面に落とし、両腕でしっかりと奈緒を抱きしめた。

多田の温もりが伝わってくる。

いっそこのまま流れに身をまかせたい……でも。


部長…


「多田さん、い、痛い…」

「あ…ごめん。」

多田は奈緒から離れた。

サラリーマンらしき男が、何も見ていなかったように鼻歌まじりで通り過ぎてゆく。

「私、ダメなんです。」


今なら引き返せる──


「えっ?」

多田が固まった。

「私、本当は年上じゃなきゃダメなんです。ごめんなさい。」

奈緒は苦しい言い訳をした。

「お、俺、年上のはずだけど…」

「10才以上離れてないと好きになれないんです。」

「そんな……」

多田はショックを隠せない。

「急いで年をとるよ。」

「えっ?」

「やっぱダメか……。あ……だから誰の事も眼中になかったのか…」

多田は一人納得していた。

「まいったな……あぁ、森下も相手にされないわけだ…」

奈緒は胸が痛んだ。

真っ直ぐに自分を信じて疑わない多田のそばで、後ろめたさを感じながら過ごすのは、今までやってきた事と何も変わらない事に思える。

「ごめんなさい。」

奈緒は受け取った名刺を返した。

納得いかない面持ちではあったが、多田はそれを受け取り奈緒に花束を渡した。

「ありがとうございます。」

「改札まで送るよ。」

「いいえ、ここで。」


「こんなに早く手から離れるなんて…」

「私、もう行きます。」

「あぁ。」

多田に背を向けて、奈緒は歩き出した。

たとえ小さな綻びでも篠崎には命取りになりかねない。

自分のしてきた事が足枷になって、前に進めなくなっていた。

過ちの代償を払わされているように思える。


奈緒は振り向かずに歩いた。

多田の温もりが消えてゆく。

一人を噛みしめるしかなかった。


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