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終止符.
第11章 うつろい
奈緒は笑いながらほっと胸を撫で下ろした。

「そんな風に笑ったりするんだ。」

「えっ?」

「いや、失礼。笑うとエクボができるんだね。知らなかった。」

「笑いますよ、私だって。」

奈緒は穏やかな気分で微笑み、温くなったコーヒーを飲み終えた。


「立花さん、さっきの話どうだろう。俺にチャンスはあるのかな?」

多田の笑顔がまた真剣な眼差しに変わる。

「………」

奈緒は突然現れたようなこの男が、淋しい今の自分の気持ちを紛らわせてくれるような気がした。

多田が姑息な手段というのなら、そこに乗っかってしまう自分はもっとずるいのかもしれない。

でも、踏み出せるのなら……

「返事は今すぐじゃなくていいんだ。……これ、俺の連絡先…」

多田は名刺の裏に、ボールペンで走り書きをして奈緒に手渡した。

「…ありがとうございます。」

奈緒がそれをバッグにしまうのを確認しながら、多田がほっとしたように明るく笑いかける。

「よかったよ。」

「えっ?」

「ちゃんと立花さんと話せてよかった。」

「………」

「もしも君に篠崎部長とは不倫関係だった、なんて事を聞かされたら、俺はこれから先ずっと、部長を許せなくて軽蔑し続ける事になるからね。…やっぱ部長は信頼を裏切らない。嬉しいよ。」

「…当たり前です。」

「だよね。」

多田は奈緒にそう言うと腕組みをしてうんうん、と頷いた。

奈緒の足元が揺らぐ。

多田の正直な言葉は、トゲのように奈緒の心に刺さり、チクチクと痛んだ。

この先もずっと多田の向こう側にいる篠崎の影を感じながら、嘘を守り続けるのだろうか。

「そろそろ帰ろうか。寺田さんと約束したからね。あはは。」

「ふふっ、そうですね。」

「タクシーで送るよ。」

「いぇ、大丈夫です。まだ電車がありますから。」

「そういうわけにも…」

「本当に大丈夫です。」

「…それじゃ駅まで。」

「ふふっ、すぐそこですよ。」

「少しでも一緒にいたいからね。」

「多田さん。」

「あはは、ごめん。」


傷は浅いうちに──


喫茶店を出て、二人は駅に向かった。

平日のせいか人通りはまばらで、鼻をつく冷たい夜風がより一層冬の深まりを感じさせる。

「綺麗な星空。」

奈緒は立ち止まって夜空を見上げた。

「あぁ、空気が澄んでるね。」



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