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終止符.
第12章 秘密
次の日、軽い頭痛で頭が重い奈緒はシャワーを浴び、遅い朝食もそこそこに頭痛薬を飲んでソファーにぐったりと腰を沈めた。

昨日受け取ったプレゼントのオルゴールは、おそらく沙耶が選んでくれたものだろう。

ドーム型のガラスの中に、サンタが乗ったソリを引くトナカイがいる。
下部に取り付けられたネジを回すとトナカイの足が動き出す。

"サンタが街にやってくる"のメロディが流れ、雪をかぶったクリスマスツリーの周りをトナカイが廻り続けた。

オルゴールの音色は楽しいメロディを物悲しく変えてしまう、だがこの曲は優しく奈緒を元気づけてくれた。

昨夜帰宅した奈緒はベッドに横たわり、何度もネジを回してはにこやかなサンタを眺めた。。

「今年も一人のクリスマスか…」

独り言をいいながら壁に貼り付いた夏色の景色を眺めた。

篠崎との約束の時間を確認し、たくさんの花で満たされた花瓶の水を替えて、社長から贈られたカードをバッグから取り出した。

力強い筆書きの文字が言葉として胸に迫ってくる。
ソファーに座り何度も読み返しながらふと、壁の青い海と白い砂浜に目をやった。

「純、ちゃんと終わりにしたわ…あなたのお母さんと私は違う…」

純の母親は、愛しい人の子どもを育てながら、捨てられた虚しさが胸を被っていたのだろうか。

悲しみを酒で癒し、我が子と交わるなんて…

心が病んでいたとしか思えない。

奈緒はため息をつきながら再び視線をカードの上に落とした。


社長の名前に目を止める。


「ふじた としゆき…としゆき………としゆき……としゆき…」

奈緒は何かを思い出そうと必死に記憶をたどった。

「とし…ゆき…としゆき…」

奈緒の目は壁の青空に貼り付いた。


あぁ…


「…純…」


あの夜だ…



──知らない男の名前を呼ぶんだ

──としゆきって誰だよ
──としゆきって誰だよ
──としゆきって…


「まさか…」

奈緒はしばらく呆然と壁を眺め、次の瞬間、何かに突き動かされるように出かける支度を始めた。

頭痛は問題ではなくなっていた。多田の事も頭から消え去っていた。

鳴り響く胸の鼓動を押さえながら時間も見ずに外へ飛び出した。


部長は知っていたんだ。
社長に子どもがいた事を。


奈緒は自転車には目もくれず、駅へと走り出した。



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