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終止符.
第12章 秘密
坂道を下り、転びそうになりながら公園近くまで来た奈緒は、息が上がって走れなくなった。

白い息を吐き、乱れた呼吸を整えながら足早に歩く。

何か忘れている事はないか、もっと確かなものはないのか。

頭の中で純との時間を必死に再生しながら、奈緒はまるで何かに挑むように前だけを見つめ、コツコツと靴音を響かせた。

純と過ごした公園、初めての朝帰りがバレたコンビニ…



「あっ。」


駅の改札を抜けた所で奈緒は立ち止まった。



…すでに二人は出会ってる



奈緒は居酒屋で社長達と出会(でくわ)した時の事を思い出した。

篠崎の妻の妊娠を知った夜。

その大ニュースを奈緒に報告しようとする沙耶を、純が遮ろうとした夜。


社長は純の名前を聞いて何か感じたのだろうか。

篠崎が、覚えがある、と言っていた純の名前…。


記憶の断片を繋ぎ合わせても確信には辿り着けない。


奈緒は空席の目立つ車内でドアの側に立ち、通り過ぎる景色をじれったい思いで次々と視界から追い出した。


コートを脱いで腕にかけ、ハンカチで額の汗を拭う。


早く篠崎と話したい。

確かめたい。

純には肉親と呼べる人がいるのかもしれない。

天涯孤独ではないのかもしれない。


「………」



純は
母親を捨てた男を
必要とするだろうか…


葬り去りたい穢れた記憶を呼び起こすだけではないだろうか。


知らなくていい事を無理に明らかにしようとしているのかも知れない…。

奈緒は冷静さを取り戻しながら、それでも真実を知りたいと願った。


駅についた奈緒はタクシーに乗り、行き先を告げて病院へと向かった。





約束の時間より40分程早く着いてしまった奈緒は、玄関の自動ドアを入り、広い待合室の片隅に腰掛けた。

番号を呼ばれて会計に向かう人や、面会に来たらしき家族連れ、ナースに車イスを押してもらう患者…


社長の病状が気になる。


「立花さん。」

篠崎が近づいて来た。

「部長。あの…」

奈緒は慌てて立ち上がった。
慣れない場所で会う事に戸惑いを感じる。


「早く着いてくれてよかった、主治医の回診時間が午後になってしまってね、今ならその前に面会出来そうなんだ、すぐに行こう。」

「あ、はい。」

奈緒は篠崎の後について歩き出した。

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