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終止符.
第13章 ひとり
──2月下旬


「それじゃ今日はこのまま直帰するから、あとは頼んだよ。」

「はい、お疲れさまでした。」

「お疲れさまでした。」

奈緒がある商社に就職してひと月が過ぎた。

まだ成長過程のこの会社は小さな貸ビルの1フロアを借りていて、社員は10名だったが他に支店が二つあった。

奈緒は他の事務員と二人、経理だけでなく受注、発注、梱包、出荷、クレーム対応、接客などあらゆる事を任されていた。

定時で帰宅する事はほとんどなかったが新しい仕事は面白く、やりがいがあった。

「やっと終わったー。」

椅子に掛けたまま同僚の知佳が背伸びをする。

「知佳ちゃん、お疲れさま。今日はいつもより早く帰れるわね。」

「奈緒さんのお陰です。もうすっかり仕事覚えちゃいましたね。」

「あはは、まだまだよ。」

二人はデスクを片付けながら雑談を楽しんだ。

「だって、3日だけ出社して突然来なくなった人もいたんですよ。忙し過ぎるって。」

「本当?」

「ホントですよー。あの時は私、一人でここやんなきゃいけなくなって社長にも手伝ってもらいましたよ。あはは。」

「まぁ。」

「社長に人を見る目がなかったのが悪いんですからね。」

「いい社長だと思うわ。」

「あんなに貫禄のない社長も珍しいですよ。」

「なに言ってるの、みんなに一目置かれてるわよ。仕事ができる人よ。」

「それはそう思います。」

「ほらね。…さあ終わった、帰りましょう。」

「はーい。終わり終わり。」

知佳は社内を見渡して明かりを消し、鍵を掛けた。

「まだまだ外は寒いわね。」

「早くお風呂に入りたいー。」

「うふふ、よ~く温まってね。それじゃあまた明日。お疲れさま。」

「お疲れさまでしたー。」

二人は冷たい風の中を別々の方向に歩き出した。

6つ年下の知佳は入社したばかりの奈緒によくなつき、二人はすぐに打ち解けた。

最近では少し位忙しくても知佳と二人で仕事を分担し、手早くこなせるようになってきた。

新しい場所、新しい仕事、新しい仲間…。

奈緒は過ぎて行く日々に追い付く事に精一杯だったが、帰りの電車の中では自分をゆっくりと見つめ直した。

今日も奈緒は電車に乗り込み、空席に腰掛け、バッグの中から一枚の絵葉書を取り出した。

それは去年のクリスマス前に純から届いたエアメールだった。


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