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終止符.
第13章 ひとり

〈奈緒さん、お元気ですか?
僕は今、ホストファミリーと一緒にマウイ島に来ています。
景色がすごくきれいで感動ものですよ。
そうそう、ガールフレンドも出来ました。
4才のアンです。
彼女と遊んであげるのが僕の役目なんです。
優しくて楽しいファミリーです。
僕もその一員なんですよ。
毎日が新鮮です。
奈緒さん楽しく笑っていますか?
奈緒さんに早く会いたいです。純
MerryX'mas & a Happy NEW year!〉
マウイの夕暮れが写し出されたその絵葉書は、夕日が海に沈んだ直後の瑠璃色の景色だった。
一本の高いヤシの木の向こう側に広がる空と海は、紫と藍色に染められ、陽の光がわずかに残っている地平線には、雲が薄紅色に光っている。
奈緒は、純が選んだその風景を見つめながら、いつものように自分の部屋の夏の景色と重ね合わせた。
明るいビーチは純そのものだと思っていた。
けれども純がくれた葉書を見ているうちに、「若いのに、どこか寂しそうで。」と言った沙耶の言葉が蘇ってくる。
彼が真実を知ったら、わずかに残された光が消え、漆黒の闇へと塗り替えられてしまうのだろうか…。
何も知らずにこのまま、帰って来ない方がいいのに…、奈緒はそう思った。
一生何も知らない方が……。
それは奈緒に決められる事ではなかった。
事実は奈緒の手の中にあるわけではなく、純の父、藤田の中にある。
藤田が手に取る風景も、純と同じだろうか。
起こってしまった出来事を、なかった事にはできない。
父親が誰であるかを知りながら、隠しておくわけにはいかない。
純を支えたい。
毎日その事ばかりを考えていた。
クリスマスと新年を実家で過ごした奈緒は、当たり前にそこにある〈家族〉に感謝した。
相変わらず雑音を発生させる母の、手の温もりを覚えている。
白髪が増えた父の、広い背中を覚えている。
孤独を感じる事があっても、振り向けば帰る場所がある。
純は眩しい程笑っていても、ひとりだった。
すべての真実を知ったら、その身が引き裂かれるのでは……。
奈緒は葉書をバッグにしまい電車を降りた。
携帯がメールの着信を知らせる。
『篠崎部長が副社長に就任するよ!』
沙耶だった。
篠崎を遠く感じる。
もう恋は終わっていた。
僕は今、ホストファミリーと一緒にマウイ島に来ています。
景色がすごくきれいで感動ものですよ。
そうそう、ガールフレンドも出来ました。
4才のアンです。
彼女と遊んであげるのが僕の役目なんです。
優しくて楽しいファミリーです。
僕もその一員なんですよ。
毎日が新鮮です。
奈緒さん楽しく笑っていますか?
奈緒さんに早く会いたいです。純
MerryX'mas & a Happy NEW year!〉
マウイの夕暮れが写し出されたその絵葉書は、夕日が海に沈んだ直後の瑠璃色の景色だった。
一本の高いヤシの木の向こう側に広がる空と海は、紫と藍色に染められ、陽の光がわずかに残っている地平線には、雲が薄紅色に光っている。
奈緒は、純が選んだその風景を見つめながら、いつものように自分の部屋の夏の景色と重ね合わせた。
明るいビーチは純そのものだと思っていた。
けれども純がくれた葉書を見ているうちに、「若いのに、どこか寂しそうで。」と言った沙耶の言葉が蘇ってくる。
彼が真実を知ったら、わずかに残された光が消え、漆黒の闇へと塗り替えられてしまうのだろうか…。
何も知らずにこのまま、帰って来ない方がいいのに…、奈緒はそう思った。
一生何も知らない方が……。
それは奈緒に決められる事ではなかった。
事実は奈緒の手の中にあるわけではなく、純の父、藤田の中にある。
藤田が手に取る風景も、純と同じだろうか。
起こってしまった出来事を、なかった事にはできない。
父親が誰であるかを知りながら、隠しておくわけにはいかない。
純を支えたい。
毎日その事ばかりを考えていた。
クリスマスと新年を実家で過ごした奈緒は、当たり前にそこにある〈家族〉に感謝した。
相変わらず雑音を発生させる母の、手の温もりを覚えている。
白髪が増えた父の、広い背中を覚えている。
孤独を感じる事があっても、振り向けば帰る場所がある。
純は眩しい程笑っていても、ひとりだった。
すべての真実を知ったら、その身が引き裂かれるのでは……。
奈緒は葉書をバッグにしまい電車を降りた。
携帯がメールの着信を知らせる。
『篠崎部長が副社長に就任するよ!』
沙耶だった。
篠崎を遠く感じる。
もう恋は終わっていた。

