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終止符.
第2章 綻び(ほころび)
「奈緒さん…」

純の腕に力が入る。

「い、痛い…離して。」

「ここにいて…」

奈緒は、下腹部に純の高まりを感じて腰を引こうとしたが、純は奈緒の腰を強く抱き締めながら壁に押し付け、熱いものを更に押し当てた。

「やめて…」

「僕は…ハァ…ハァ…奈緒さんを傷付けたりしない。」

「あなたなんか…好きにならない…ハァ…ハァ…離して…」

「それでもいい…」

「!…ン…」


純は嫌がる奈緒の唇を奪った。

奈緒の両手は純の胸を押し退けようするが、かなわない。

純のもどかしいキスは、真二を思い出させた。

一途なだけのあの頃。

純がぶつけてくる不器用な愛。

純が眩しい。

彼を汚してしまいそうで怖い。

奈緒は身体の力を抜いた。

純がハッとして奈緒を見つめる。

「もうやめて。あなたに必要なのは私じゃない。」

「僕を好きになってれなくても構わない、あの人を忘れる為に…僕を使って。」

「な、何を言い出すの?ばかね。あなたは間違ってる。」

悲しい眼をして奈緒を見つめる純が、力なくうなだれた。

「間違ってるのは奈緒さんだ。…僕ではダメなんですか?」

「彼じゃないとダメなの。」

「愛されているつもりですか?」

「えぇ。」

「そんなのは嘘だ。」

「もう、私に構わないで。」

「無理です。」

「放っておいて。」

「いやだ。」

「迷惑なの。」

「………」

「帰るわ。」

「言いませんから。」

「………」

「彼の事、誰にも言ったりしませんから。」

「…お願いします。」

奈緒は自分の部屋に戻った。

ドアの内側にしゃがみこんで膝を抱える。

自分の汚さを思う。

純の眩しさを思う。

純の匂いが残っている。

乱暴なキスが残っている。

胸が苦しい。

篠崎に逢いたい。

身体に残っている純を消して欲しい。

「真二…。」

苦い思い出とともに今を思い、もう輝いていない自分の、過ちを省みる。

「部長…今すぐここに来て。 声が聞きたい。私を抱きしめて、愛していると言って。…逢いたい…逢いたい…逢いたい…」

奈緒は泣いた。

それが不倫というものに付きまとう寂しさだった。

一人だった。

雨音を聞きながら奈緒は泣いた。

篠崎を知ってから初めて泣いた。


そばにいて

そばにいて

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