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終止符.
第2章 綻び(ほころび)
梅雨明けも近いのに、雨はまだ止まない。

奈緒は純の部屋の明かりを確認してからドアのチャイムを押した。

「はい。」

インターホンから純の声がする。

「…あの、遅い時間にごめんなさい。立花です。」

「えっ?奈緒さん?い、今開けます。」

カチャリと鍵を外す音がしてドアが開いた。

風呂上がりだったらしく、短パンにTシャツ姿でタオルを首に掛けている。

「こ、こんな恰好ですみません。帰りに雨に濡れてしまって風呂に入って今髪を…あ、僕に何か?」

「…あの。」

「とりあえずドアを閉めてもらっていいですか? よく蚊が入ってくるんです。あはは。」

奈緒は純の部屋の玄関に入ってドアを閉めた。 外でできる話ではなかった。

ガシャガシャと髪を拭きながら純が奈緒を見つめる。

「あ~すっきりした。で、僕に何か?」

奈緒は背の高い純を見上げながら口を開いた。

「…黙っていて欲しいの。」

「えっ?」

純がぽかんとした顔で見つめる。

「沙耶達に、私の…その…付き合っている人の事を。」

純はしばらく黙っていたが、真剣な顔つきで言った。

「やめてくれますか?」

「えっ?」

「不倫なんてやめてください。奈緒さんが傷付くだけです。」

「あなたには関係ないわ。」

「周りも傷付けます。」

「黙っていてくれたら誰も傷付かないわ。」

「言いませんよ。約束します。でも…」

「………」

「奈緒さんが傷つくのが分かっていて、今ここで黙っている事は出来ません。」

「ふっ、関係ないでしょう?あなたには関係ないでしょう? 他人の事に口出ししないで。」

「僕は…僕は、母が不倫して産んだ子供です。」

「!」

「あなたは必ず深く傷付く。」

「…あなたのお母さんと私は違うわ。」

「あなたは何も分かってない。」

「そうね。深く傷付くかも知れないわ、えぇ、あなたの言う通りよ。でもそれがなんなの? あなたに何か迷惑をかけ…ッ!」

「………」

奈緒は純の腕の中にいた。

真二の匂いがした。

若い頃に愛し合い、抱き合った、懐かしい人の匂いを、記憶を、純が呼び覚ます。

「………」

「僕を見て。」

「やめて…手を離しなさい。」

「あなたが好きです。…僕を、笑わないで。」


純の鼓動が伝わる。
二人の鼓動が重なる。


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