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終止符.
第15章 痛み
「何を話せばいいんだろう。」

「大丈夫よ、大丈夫だから。」


公園が近付くにつれて、純の緊張は増していった。

連休ののんびりとした空気が、二人の周りには漂っていなかった。

二人は手を繋ぎ、言葉少なに歩いた。

「奈緒さん、そばにいて下さい。」

「ご挨拶だけにするわ。私は部外者だもの。」

「もう部外者じゃない…僕の一部です。」

「純…」


陽は西に傾きかけてはいたが明るく町並みを照らし、そよ風が木々を揺らしていた。

二人は公園の入口で足を止めた。
一度顔を見合わせて軽く頷き、繋いだ手を強く握り合ってから前を向いて歩き出した。

昨日の雨でぬかるんだ場所を避けながら奥へと進み、東家のベンチに一人佇む女性を見つけた。


「きっとあの人だ。」

「…えぇ。」


昨日純が座っていたベンチに、同じように座っている女性。


二人は彼女の横顔を見つめながら静かに歩を進めた。

その人は陽射しを遮るつばの広いゆったりとした帽子をかぶり、サングラスを掛けていた。

白いブラウスの上に着ている薄いパープルのカーディガンは、肩から背中に掛かる栗色の髪と白い素肌によく似合い、ふんわりとしたスカートの足元にはスニーカーを履いてきちんと揃えられた細い脚が見えた。

近付く二人に気付かないのか、肩から掛けたバッグを膝の上に乗せ、片手をその上に乗せたまま背筋を伸ばし、真っ直ぐに前を向いたまま、まるで人形のようにじっと座っていた。

美しい人だった。


軽く閉じられた小さな唇には、ピンクベージュの口紅がそっと添えられ、その物腰は落ち着いた女性らしさが感じられた。


更に近付くと、サングラスのレンズの向こう側に見える瞳は閉じられ、まどろんでいるようにも見える。


二人が顔を見合わせて更に足を踏み出した時、東家の周辺に敷き詰められた砂利が微かに音を立てた。


「……」


女性は黙ったまま首を傾げた。

こちらを向かないその人に純が声を掛けた。


「あの、愛子さんですか? 僕、谷口純です。」

「……純さん?…はじめまして、篠崎愛子です。」


そう言いながらベンチから立ち上がった時、足元に何かが落ちてカタンと小さな音がした。


「奈緒さん…」


気がついた純が奈緒を見た。

純がもう一度戻した視線の先に落ちていたものは、白い杖だった。


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