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終止符.
第15章 痛み
目が……。
二人は何も言えずに愛子の足元を見つめていた。
「──…奈緒さん?」
愛子はそう言うとベンチに座り直し、肩から掛けていたバッグを膝の上に置いた。
首からは携帯電話が掛けられていた。
「あ、はい。……はじめまして、立花奈緒と申します。」
奈緒は慌てて名前を口にした。
純は屈んで、愛子の足元に落ちている杖を拾った。
「あの、これ。」
「えっ?…あ、ご、ごめんなさい、ありがとうございます。」
純が愛子の手の甲に杖を触れさせると、愛子は慌ててそれを掴んで礼を言った。
沈黙が続いた。
少し俯いている愛子を見つめながら、奈緒は篠崎と愛子との携帯でのやり取りや、この公園での夜の事を思い出した。
「危ないから、そこにじっとしてなさい、いいね。」
破水したとの連絡に、慌てふためいて奈緒を置き去りにして行ってしまった夜…
「妻は…私しか知らない。私だけを信じているだろう。高校生の時から見守ってきたからね。」
「何があっても妻を不幸にはできない。」
ひとつひとつの小さななぜが、今答えを出し始めた。
「…奈緒さんは……父の会社にいた方ですか?」
愛子が静かに口を開いた。
「…は、はい。」
奈緒は緊張して答えた。
なぜ知っているのだろう、まさか…。
「わざわざ父のお見舞いに来てくださってありがとうございました。」
愛子は奈緒のいない正面に頭を下げた。
「あ、いえそんな…お世話になりましたので、ご挨拶だけさせて頂きました。」
奈緒はほっと胸を撫で下ろした。
「あの、お二人とも掛ける場所があったらどうぞ…」
「あ、大切なお話でしょうから私はこれで失礼します。」
奈緒は不安そうな純の顔を見ながらそう言った。
「構いません…純さんを私どもに会わせてくださったのは奈緒さんだったんですね。」
「いえ、そんな…」
「どうぞ、構いませんので…」
純が奈緒の手を握った。
「そ、それでは、お言葉に甘えて…」
「僕、ここでいいですか?」
純は愛子の隣に座り、奈緒はくの字に並べられたベンチの端に座って二人を斜めから見た。
違う母を持つ姉と弟は、お互いの痛みとどう向き合うのだろうか。
奈緒はそう思いながらも、自分の罪が明るみにならなかった事に心底ほっとしていた。