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終止符.
第5章 霧の中
いつもより仕事が長引いて、奈緒は焦っていた。

純へのプレゼントを買い、リボンをかけてもらう間も、ずっと時間が気になった。

篠崎が訪ねて来るのは10時過ぎの筈だ。
もう9時を過ぎていた。
小走りで駅に着き、ホームで電車を待つ。

プレゼントを、もっと早く買っておくべきだったと後悔した。

篠崎が来る前にシャワーを浴びたい。

電車を乗り換え、最寄り駅に着くと、タクシー乗り場の混雑に舌打ちをしながら、奈緒は駆け出した。



息を切らせながらアパートの階段を上がる。

純の部屋の灯りを確認してチャイムを鳴らす。


「あ、奈緒さん、お帰りなさい。」

通路側のキッチンの窓から少し顔を除かせて、純が笑いかける。

「ハァ…ハァ…お、お誕生日、おめでとう。ハァ…ハァ…これ、プレゼント。」

「マジですか? すぐ開けますから。」

ドアが開いた。

「奈緒さん、一緒にビールで乾杯してくれませんか?」

「えっ?」

「じつは一人きりの誕生日なんです。ハハハ…」

「ハァ…ハァ…悪いけど、忙しいの。…ハァ…ハァ…これ、気に入ってくれたら、嬉しいんだけど。」

「ありがとうございます。いやー、嬉しいな。なんだろう、開けてもいいですか?」

「ハァ…ハァ…」

「あ、ドアを閉めてもらっていいですか?」

中に入ると、ダイニングキッチンのテーブルの上に、ショートケーキが2個置かれていた。

「ケーキ食べませんか?」

嬉しそうに包装紙を開けながら純が言う。

「ごめん。今日はダメなの。」

「わ~、ジグソーパズルだ。これ…あ、1000ピースなら楽勝だ。さっそく作ります。海かぁ、いいなぁ。ありがとうございます。」

「気に入ってくれてよかった。」

純はバタバタと冷蔵庫からビールを取り出し、二人分をグラスに注いで、一つを奈緒に差し出した。

「汗かいてますよ。はい、乾杯! 僕の誕生日に。」

「乾杯」

冷たいビールが喉を潤す。

「いくつになったの?」

「21です。」

「21才おめでとう。」

「ありがとうございます。」

「素敵な1年になるといいわね。」

(ピンポーン)

隣の部屋のチャイムが聞こえた。


部長…


奈緒はドアを開けようとドアノブに手をのばした。

「ぅッ!」

いきなり背後から純に引き寄せられ、手が口を塞いだ。


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