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終止符.
第6章 狭間(はざま)
(ピンポーン)

ドアのチャイムが鳴った。

奈緒は眠い目を擦りながら目覚まし時計を見た。

6時15分。

こんな早い時間に誰?

よろよろとベッドから降りて、インターホンに出る。

「はい。」

「奈緒、私だ。」

「えっ?」

篠崎の声だった。

奈緒は一瞬で我に返った。

昨夜の事は夢だったのだろうか。

純に何度も求められ、欲望のままに激しく燃え上がった淫らな夜。

純が眠っている間に、自宅に戻ってシャワーを浴び直し、パジャマに着替えて……

「奈緒、大丈夫か?」

「は、はい。」

奈緒は慌ててドアを開けた。

「部長…」

「何度も連絡したけど音沙汰なしで…心配したよ。」

玄関に入りながら奈緒を見つめ、ほっとため息をつく篠崎に、奈緒の心が痛む。

「わざわざ来てくれたんですか?」

「そんな事よりどうしたんだ。」

「あの……帰宅途中に、具合が悪くなって…それで、途中で電車を降りて…しばらくホームで休憩したりして…帰りが遅くなって…」

「バカだな、なぜ私に連絡をよこさないんだ。」

上手な嘘が増えてゆく。

「だって…私から連絡なんて…」

「あぁ、すまない。でもメール位よこしなさい。」

「…ごめんなさい。」

「いや無事でよかった。熱は?」

篠崎が奈緒の額に手をあてる。

「……」

「熱はないね。今日は休みなさい。後で社に連絡を…」

「行きます。」

「無理をしたらだめだ。」

「平気です、行きます。」


奈緒は篠崎の胸元にそっと頬を近づけた。

「どうした。…ん?」

篠崎は奈緒の髪を撫で、背中をとんとんと軽く叩いた。

「部長…ごめんなさい。」

「あぁ、いいさ。」


篠崎は優しく奈緒を抱きしめた。

胸が熱くなる。

「私はそろそろ行くよ。奈緒、無理なら休みなさい。」

「大丈夫です。ご心配お掛けしました。」

「それじゃ、いってきます。」

「いってらっしゃい。」

篠崎は奈緒の額に優しくキスをして少し微笑み、奈緒を見つめて軽く頷きながらドアの向こうに消えた。

思いがけない訪問に心が温かくなる。
胸が痛む。

そして…
妻に嫉妬した。

何も知らずに平和な毎日を、幸せに過ごしているであろう世間知らずな女に、奈緒は身勝手に嫉妬していた。

篠崎の優しさは、自分だけに向いていて欲しいものだった。

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