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終止符.
第7章 ひび割れ
あなたは、一番高い場所にいて、全てを持っているじゃない。

今までもこれからも、ずっと幸せなんでしょう?

何も知らずにきれいに生きて、穏やかな日々を送っていられる。

それならせめて少しくらい、優越感を感じさせて。

彼の心は私のものだと、確かめるわずかな時間まで、奪い取ってしまわないで。


「奈緒さん。」

「今、何時かしら?」

「…10時15分です。」

「奈緒さん、あの喫茶店で少し休みましょう。」

「いいの、大丈夫。」

「じゃあ帰りましょう。」

奈緒は携帯を取り出してメールを打とうとした。

「どうするんですか?」

「あなたは帰って。」

「まさか、冗談でしょう?」

「……」


『ラウンジでお待ちしています。』


メールを送り携帯をバッグにしまう。

「あなたは帰って。もう酔いは覚めたわ。」

「顔色がよくない。」

「いいの。」

「何も変える事は出来ませんよ。」

「ふふっ、わかってるわよ。」

「惨めなだけだ。」

「そうね。……悪いけど、一人になりたいの。慰めはいらない。」

「……」

「純、おやすみなさい。」

純は悲しそうな顔をして深いため息をついた。


「……おやすみなさい。奈緒さん。」


純の後ろ姿を見送りながら、もう一度篠崎にメールを送った。


『いつまでもお待ちしています。』


真二と別れた時は、篠崎に慰めを求めた。

自分の意思でここまで来てしまっていた。

違う、自分の意思では止められない程、彼を愛していた。

純に同じ事をするつもりはない。

奈緒は自分がどうするべきなのか分からないまま、待ち合わせの場所に向かった。

現実なのか、悪い夢でも見ているのかわからないまま、ぼんやりと電車に乗った。

何か答えを出すべきなんだろう。

それはどんな答え?

祝福の言葉を言うべきだろうか。

…おめでとうございます、

…良かったですね。

…当たり前の事ですよ。
…仲がいいんですね。

空々しい言葉ばかりを思いつく。

まるで嫌味だ。

電車を降りて歩きながらふとショーウィンドーに映った自分の姿に足を止める。

自業自得が服を着て、惨めな顔で立っている。

指を差して笑っては、また次のガラスの前で指を差す。


そろそろ終止符を、打つべき時だろうか。



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