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終止符.
第8章 転機
「忘れ物ないかしら。」

クローゼット、バスルーム、キッチン…。

扉や引き出しを確認する。

何も残していない事を少し残念に感じながら、玄関で靴を履き靴箱を開けてみる。

「ん?」

紙が一枚入っていた。

「なにこれ。」

マジックで何か書かれている。



『新しく入居する方へ

隣に住んでいる女性には気を付けましょう!

近づいてはいけません!

関わってはいけません!

助けを求められた時にだけ、親切にしてあげましょう。


元住人より。』



「えぇっ!?」

奈緒は呆気に取られた。

「…純……ふふっ、あははは…」

奈緒はその紙を手にしたまま、純の部屋に鍵を掛けた。

なぜか心が温かい。

自分の部屋に戻り、手にした紙を読み返す。

笑いながらふと、純のパズルに目がいく。


「笑っててください。」


明日は笑えるだろうか。

付箋を付けた求人雑誌に目を通しながら、篠崎に背を向けて前に進もうとする自分を励ましてみる。

「純には負けられない。」

純に貸したタオルケットを抱きしめる。

微かに純の匂いがする。

エアコンの温度を下げて、タオルケットにくるまり、心地よい眠りに誘われる。

純は今どこにいるのだろう。

目を閉じる。

手を振る純の後ろ姿が浮かび上がる。

「純…あなたが背中を押してくれてる。」

純の鍵を返しに行くのは午後にしようと思いながら、奈緒は浅い眠りに付いた。



………………………


「奈緒、やっぱり気は変わらない?」

コピーした書類を片手に、沙耶が話しかける。


「部長の手が空いたら、行動開始。」

「…わかった、がんばって。」


沙耶は出社するなり純がアメリカへ行ってしまった事で寂しがり、奈緒の退職の事でも寂しがって落ち込んでいた。

友達は、退職しても遠く離れても繋がっていられる。
けれども愛した人とは、その関係に終わりを告げた後、身を切られるような痛みに耐えなければならない。

妻や同僚達に感じていた優越感が、ばかげた自己陶酔だった事に吐き気を催す。

自分から求めた罪へのしっぺ返しを、一人で引き受けなければならない。

書類をファイルに綴じ込みながら篠崎のデスクに目を向けると、受話器を置いて一息ついた篠崎が立ち上がり、窓の外を眺めていた。

奈緒は引き出しから退職願いを取り出し席を立った。

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