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終止符.
第9章 隠せない心
奈緒は篠崎を避け続けた。

必要な事以外、極力会話を避け、目で追ってしまわないように気をつけた。

それが周囲から不自然だと気付かれる事はなかった。

ずっとそうしてきた。
いつも気をつけていた。

今までは篠崎の立場の為に、今は自分の迷いを断ち切る為に。


「奈緒、11月20日付けで決まりそうだけど大丈夫?」

千秋がそっと教えてくれた。

「なかなか調整つかなくて。」

「もっと早い方がいいんだけど…しょうがないな。雇用保険を活用するわ。」

「そうだよ。今年中の再就職は難しいかもしれないし、がんばってきたんだから命の洗濯って事でゆっくり探して。」

ギラギラとした陽の光も弱まり、10月になっていた。

篠崎は出張が重なり、奈緒はほっとしていた。

このまま静かに去って行きたい。



「あ~ぁ、決まっちゃったんだ~。」

いつものファミレスで沙耶がため息まじりに呟く。

「もう会えなくなるわけじゃないんだから。」

「そうだけどさぁ。ずっと隣にいたんだよ、寂しいよ。……純のバイト先に行ってみてもやっぱりそこにはいないしさ。」

「純クンどうしてるのかな。初めてここで出会ったんだよね。奈緒に見とれてた。あはは。」

千秋が笑う。

「懐かしい~。バイト先で偶然会ったし。かわいいヤツだよ純は。あはは。」

沙耶が笑う。

「日本に戻ったら必ず連絡するように言っといたから、またみんなで会おうよ。」

「そうしよう。奈緒、その頃は奈緒も違う職場なんだからさ。」

「うん、わかった。」


その頃は気持ちにも区切りがついているだろう。

奈緒の部屋の隣はまだ空いたままで、奈緒が帰り着いてもそこから明かりが漏れている事はなかった。

しんと静まり返った部屋は、懐かしい純の笑顔を思い出させ、部屋に入って眺める夏の風景は、崩れそうな奈緒を支えた。

楽しいひと時を友人と過ごし、一人ぼっちの静かすぎる家に帰る。

肩を落とし階段を上がる奈緒の目の前に、階段を下りてきた人影が足を止めた。

「奈緒。」

篠崎だった。

「…どうして…」

「ずっと話がしたかった。」

「………」

胸が熱くなる。

「奈緒。」

「何も…話す事はありません。」

奈緒は篠崎の横を無理やりすり抜けて階段を上がり、部屋の鍵を開けてドアノブに手を掛けた。


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