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終止符.
第10章 寂寥(せきりょう)
「やっぱりいないんだよなぁ。」

純がいなくなったコーヒーショップでカフェオレを一口飲んで、沙耶がため息をついた。

「ふふ…分かりきった事を言わないの。」

奈緒が言った。

奈緒は篠崎と別れてから、孤独の中にいた。

無関心を装いながらも篠崎への想いは切なく募るばかりで、それを振り払う為に少しでも手が空くと人の仕事も手伝った。

真っ直ぐに帰宅する気にはなれず、平日でも沙耶や千秋を誘って夕食に付き合わせた。

二人とも退職までの時間を惜しんで心よく奈緒と出掛け、沙耶は森下を連れてくることもあった。

「沙耶は森下さんと上手くいってるんだから純がいなくたって平気でしょう?」

「そうだけど、そこにいた人がいないって寂しいよ。奈緒が辞める事も寂しいんだよ。」

「純は帰って来るし、私とだっていつでも会える。」

「奈緒は平気なの?」

「ん~寂しくってたまんない。」

「あはは。ほらね。」

「うふふ。よかったわ、寂しがりやの沙耶に森下さんがいて。」

「うん。」

「楽しい?」

「彼、優しいの。」

「へぇー、ちょっとがさつに見えるけどな。」

「そうなんだけど…その…」

「なに?」

「彼すごく素敵なの。」

「ふーん、何が?」

「その、今までの人とぜんぜん違うの。」

「?」

「だから、ベッドで…」

「ベッドで?」

「大切に扱ってくれてるのがわかる…っていうか…その…すごく気持ちよくなっちゃう…」

沙耶は恥ずかしそうに俯いた。

奈緒は沙耶が森下と交わっている光景を思い浮かべ、目の前で幸せそうに美しく輝いている友人に嫉妬した。

「羨ましいな。」

「えへへ、ごめん。…奈緒は本当に誰もいないの?」

「いないの。」

「純は本気だよ。」

「……」

「奈緒、純は…」

「今頃きっとアメリカで楽しんでるわ。」

「奈緒ったら。」

「今はそれどころじゃないわよ。就職活動始めなきゃ。」

「いい所見つかりそう?」

「まあね。立派な会社じゃないけど、いくつかあるわ。」

「奈緒なら即採用だよ。」

「がんばりますっ。」

「応援しますっ。あはは。」



奈緒は沙耶と別れ、夜の道を一人、寂しいだけのアパートへと戻る。

秋風が頬を撫で、澄んだ空気が心地よくても、言葉にできない焦燥感が奈緒に重くのし掛かっていた。


自分だけが不幸に思えた。

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