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終止符.
第10章 寂寥(せきりょう)
『えーっ!お姉ちゃん仕事辞めちゃうの?…ちょっと、…お母さんお姉ちゃんが仕事辞めちゃうんだって…』
電話の向こうで5つ年下の妹志穂が騒いでいる。
『奈緒、本当なの?いったいどうしたのよ。』
奈緒は適当な理由を並べて取り繕い、いつも通りの事後報告で母を呆れさせた。
『なかなか帰ってこないと思ったらこれだもの……あ、さっちゃん結婚したのよ、奈緒はどうなの?…もう真二さんとは何もないのよね。…もしもし、奈緒聞いてる?』
『聞いてるわよ、目下恋人募集中よ。』
『まったく…志穂が結婚するかもしれないっていうのにあなたは…』
『志穂に言っといて、彼が浮気してないか確かめなさいって。』
『変な事言わないでちょうだい、奈緒、たまには顔を見せなさいよ。』
『そのうちね。あ、お父さんと翔によろしく。』
まだなにか話し続けている母の声を聞きながら電話を切った。
電車を乗り継いで二時間あれば実家だった。
いつの間にか懐かしい場所になってしまう程、家には帰っていなかった。
近所付き合いの得意な母親から、周囲の結婚の噂を聞かされるのも面倒だったし、自分の生活に口出しされるのも嫌だった。
家族なんて面倒くさい。
「いってらっしゃい、って言ってくれる家族がいないから、奈緒さんに送ってもらいたかったんです。」
純の言葉を思い出す。
「お母さん、ごめんね。」
奈緒はため息をついた。
娘の不倫を知ったら母はどう思うだろう。
父は、妹や弟は…。
いつでも迎え入れてくれる家から、一人はみ出してしまっていた奈緒は、きちんと心にもケリをつけてから実家に顔を出そうと思っていた。
真二との関係が終わった時も、すぐに母に言うことができず、篠崎を知って立ち直ってからの報告だった。
家族に涙を見せたり、心配させるのは嫌だった。
今母の顔を見ると泣いてしまいそうな程、奈緒の心は弱っていた。
誕生日に純がプレゼントしてくれたシャボン玉を取り出して、窓辺でフゥ―っと吹いてみる。
街灯の明かりを反射しながらシャボン玉がゆらゆらと風にのってしばらく漂い、弾けて消える。
あんな風に消えてしまいたい。
「部長…」
訪ねて来てくれないだろうか。
チャイムを鳴らしてくれないだろうか。
何度着信を確認しても、篠崎から連絡が来ることはなかった。
電話の向こうで5つ年下の妹志穂が騒いでいる。
『奈緒、本当なの?いったいどうしたのよ。』
奈緒は適当な理由を並べて取り繕い、いつも通りの事後報告で母を呆れさせた。
『なかなか帰ってこないと思ったらこれだもの……あ、さっちゃん結婚したのよ、奈緒はどうなの?…もう真二さんとは何もないのよね。…もしもし、奈緒聞いてる?』
『聞いてるわよ、目下恋人募集中よ。』
『まったく…志穂が結婚するかもしれないっていうのにあなたは…』
『志穂に言っといて、彼が浮気してないか確かめなさいって。』
『変な事言わないでちょうだい、奈緒、たまには顔を見せなさいよ。』
『そのうちね。あ、お父さんと翔によろしく。』
まだなにか話し続けている母の声を聞きながら電話を切った。
電車を乗り継いで二時間あれば実家だった。
いつの間にか懐かしい場所になってしまう程、家には帰っていなかった。
近所付き合いの得意な母親から、周囲の結婚の噂を聞かされるのも面倒だったし、自分の生活に口出しされるのも嫌だった。
家族なんて面倒くさい。
「いってらっしゃい、って言ってくれる家族がいないから、奈緒さんに送ってもらいたかったんです。」
純の言葉を思い出す。
「お母さん、ごめんね。」
奈緒はため息をついた。
娘の不倫を知ったら母はどう思うだろう。
父は、妹や弟は…。
いつでも迎え入れてくれる家から、一人はみ出してしまっていた奈緒は、きちんと心にもケリをつけてから実家に顔を出そうと思っていた。
真二との関係が終わった時も、すぐに母に言うことができず、篠崎を知って立ち直ってからの報告だった。
家族に涙を見せたり、心配させるのは嫌だった。
今母の顔を見ると泣いてしまいそうな程、奈緒の心は弱っていた。
誕生日に純がプレゼントしてくれたシャボン玉を取り出して、窓辺でフゥ―っと吹いてみる。
街灯の明かりを反射しながらシャボン玉がゆらゆらと風にのってしばらく漂い、弾けて消える。
あんな風に消えてしまいたい。
「部長…」
訪ねて来てくれないだろうか。
チャイムを鳴らしてくれないだろうか。
何度着信を確認しても、篠崎から連絡が来ることはなかった。